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31部:岐阜の月

於八は、悪夢から逃げるようにふらふらと庭を彷徨い歩き、庭木戸のところで、壁にもたれて呆けている於勝を見つけた。

「生きているか、於勝」と心配になって声をかける。

「息はしている」と於勝は答えた。

「いやあ、若の冬姫姿に驚かされてしまったよ」と於八は笑い話に変え、力なく笑う。

「・・同じく」と於勝は力なく答える。

やはりお前もかと、声には出さないが悟った於八。

日はとっくに暮れ、空には月が顔を出している。元服していれば、この晴れぬ気持ちを月見酒で一杯やって忘れてしまえるかもしれないのに、と於八は思った。

「於勝、まだ冬姫様が嫁に行くと決まったわけではないぞ」

於八は月を見上げたまま言う。

「そうか。そうだな!鶴千代が手柄を立てなければ、この話はお流れだ」と於勝は気を取り直した。

「だから我々も早く初陣出来るよう、共に精進しよう」

「於八には負けぬくらい強くなって、初陣で手柄をたくさん取ってやるさ」

織田家侍のお歴々を差し置いて、初陣の鶴千代が目覚ましい軍功を立てる事は難しいだろう。そのわずかな希望に胸に抱き、そして、自分たちの来るべき戦いのために備えれば良いと二人は気持ちを改めた。

内容はどうであれ、冬姫様に女装してまで自分を案じてくれる奇妙丸に懸命にご奉仕しようと決意した於勝と於八である。


*****


岐阜城、濃御殿。

信長は奇蝶と共に月を見ながら酒を飲んでいる。そこへ、書状を手にした万見仙千代が現れた。

「殿様、山城表の坂井政尚、木下秀吉殿よりご連絡が」と書状を捧げる。

「うむ、・・・・・であるか」

読み終えた信長は、仙千代に書状を戻す。仙千代は書状を持って、深く頭を下げてから退いた。

信長は再び月に目を移し、何かを思案している。

「私も、いつか上洛してみたいです」

奇蝶は、信長の杯に酒を注ぎながら、たまには一緒に外出したいものですとねだってみる。

月が映った酒を、信長は一口で飲み干した。奇蝶が何か言いたげに信長の顔を見ている。

「どうした奇蝶?」

「今日は何の日か忘れましたか? 信長様のお誕生日ですよ」

「忘れていた」

「36歳ですね」

「うむ。岐阜に戻っていて良かったわい」

「二人でお祝いできて嬉しいです」

「奇蝶、明日清州について来ぬか?」と信長は珍しく尾張行きへの同行を誘った。

奇蝶は驚きながらも、「もちろんついて行きます」と笑顔で答えた。

久々の尾張帰還だが、それよりも信長が誘ってくれたことが奇蝶は何よりも嬉しかった。



第5話  完

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