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27部:織田奇蝶

<濃御殿の奥庭>

鶴千代が去った後も、桜は熱心に花の手入れに勤しんでいた。初夏の色とりどりの花が咲いている。

「花がきれいですね」

「奇蝶様」

花の手入れに集中するあまり人の気配に気づくことのできなかった桜は、奇蝶の声掛けに驚いてしまった。

「挨拶はいいですよ、仕事を続けて」

「はい」

奇蝶の言葉に応じ、桜は花の手入れに戻る。

奇妙丸よりも幼い桜を見て、奇蝶は自分に娘がいたならば、と想像する。小さな手がとても愛らしいが、横顔は凛として冬姫よりも大人びている。そして何よりも、たくましく見えた。

「貴方は、奇妙丸が連れてきた、御庭番の妹さんね」

「はい、桜と申します」

「よろしくね、桜」

奇蝶は優しく微笑みかけてくれ、桜は思わず見惚れてしまった。

「そうだわ、あなたにお願いがあるのだけれど」

奇蝶は思いついたように手のひらをぽんっとたたいた。表情がよくと変わると桜は思った。

「どのような事でございましょうか」

「私もだけど、奇妙丸はずっと城の中で生活していたために世間知らずな所があるから、いろいろ教えてあげてほしいの」

そう言われた桜は、思わず返答に困ってしまう。なぜなら桜自身も、幼き頃から甲賀の山奥で生活をしていたため、期待に応える事はできないからだ。

「どうしたの?」黙ってしまった桜を見て、奇蝶は心配そうに聞いた。

「あの、私もずっと、甲賀の山奥で生活しておりましたので、世情に疎いのです」

「あら、そうだったの」

「それに、父は桶狭間で亡くなり、その後母も身体を悪くして亡くしましたので」

「まあ、あの時の合戦で」

幼くして両親を亡くし、それでも弱音を吐かずに兄弟たちと共に懸命に生きている桜を知り、奇蝶はまさに花のように可憐だが力強い娘だと思った。

「では、これからは私を母と思って。私も、父と兄を亡くしましたから。この屋敷にいるものは皆、貴方も含め私の家族です」

「奇蝶様、もったいないお言葉です」

桜は奇蝶の優しい言葉に胸が熱くなった。

「そうだ、宇治の御抹茶を頂きましたので、一緒に賞味しましょう。さあ、一休みしましょう」

そう言うと奇蝶は桜の手を優しく握った。

奇蝶御前は、桜を大変気に入ったようだ。


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