24部:岐阜帰還
北方城城下町、春日屋。
勘九郎が荷物をまとめながら
「俵三郎(鶴千代)がいて良かった」と回顧する。
「隠密旅とは、なかなか難しいものだな」
「一度、岐阜城に戻ってじっくりと変装を考察しましょう」と男平八。
「そうだな、まだまだ我らは竹中半兵衛殿には遠く及ばないということだ」と戒める勘九郎だった。
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それから半日後の岐阜城内。
「ただいま、冬姫」
「兄上様」喜びのあまり冬姫が抱き着く。
「すまなかったな、山登りきつかっただろ」
「兄上様の為なら、苦にもなりませぬ」
「政務は塚本様・梶原様に捌いて頂けますし、一週間でも大丈夫ですよ」
「ありがとう」
「姫、お聞きしたい儀が」と勝蔵。
「これはどういう」と、脛当てを見せる俵三郎。
「皆、同じようなものを」と手甲を見せる男八郎。
「三人仲良くという姫の気持ちです。もちろん、兄上様にはもっと特別なものを用意しておりますから、楽しみにしていてくださいね、兄上様」と、兄の手を取りにこにこの冬姫。
「いいものって、兜か」と三人の持ち物から予想する勘九郎。
「ひみつです」と冬姫。
兄妹に取り残されたようで顔を見合す三人だった。
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岐阜城山麓、濃御殿〈奇蝶ノ間〉
「母上、奇妙丸に御座いまする」
「おお、なんだか、少し成長したような気がするの」
「加納から、大垣、北方を回って参りました」
「町のほうじゃな、賑わっておったか? 父・道三の手塩にかけた都市じゃ」
「はい、大変面白く御座いました」
「人あっての国じゃ、領民を大切にするのじゃ。悪政ばかりしていると、皆あきれて、住みよい国に移住してしまうからの。栄華を築いた今川でさえも、今はあの有様じゃ」
「肝に銘じておきます」
「もうちょっとちこうよれ」
「はい」
「よう帰ってきたの」と抱きしめる。奇妙丸は、心から心配してくれていた義母に感謝する
「母上にお土産があります」と大垣産の干し柿を取り出した。
「なんと、これは嬉しい」懐かしい味に奇蝶御前はご機嫌だった。
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3日後の京都一条妙覚寺。
「上様、梶原於八から連絡が参りました」と書状を捧げる万見仙千代。
「うむ、・・・・・・であるか」書状に目を通す信長。
「西美濃三人衆、奇妙丸の手には余るか、それに蒲生の息子も面白い奴よ」
書状をしまうように万見に手渡し、何か思案する信長だった。
*****
「若様、上様が5月11日(旧暦)に帰城される予定だそうです」於八(男平八)が父・梶原平次郎からの情報を持ってきた。
「そうか、久々に父上に会えるな」
「東美濃衆には軍勢と兵糧の徴収も催促され、人数が集まり次第、岐阜城に来いと厳命されておられます」
「戦か」
第4話 完




