23部:柳
「やつら、このまま捕虜として我が家であずかりましょうか。刀はあわよくば」と小声で右衛門佐が直重に相談する。
「いや、人質預かりの身の蒲生の息子に何かあれば、信長様の怒りがこちらに向けられるかもしれん。
それに、蒲生の曾祖父・蒲生高郷殿には高恩がある」と安藤将監直重。
「では、ここは不問にして解き放つが上策ですか」
「うむ、そうじゃの」(どうやら、右衛門佐は相州貞宗の持ち主には気づいてないようだの)
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相談を終え戻って来た二人に、
「我々、敵対する気はござらん」と男平八が補足する。
「ふむぅ、持ち物から察して本物に間違えござらぬようじゃ」直重も納得が行った様子だ。
「今回は縄を解いてやる。早々に安藤領を立ち去ることだ」と右衛門佐。
家来に命じ、四人の縄を解き放った。
「では、どこへなりと去るが良い」と右衛門佐は四人に関心を失い、
「叔父上あとはお任せする」と城館に戻る。
「今回は一同失礼つかまった。それでは、私が門前までお送りしましょう」と直重。
道すがら、
「安藤殿は領内の不審者を取り締まられただけのこと」と鶴千代(俵三郎)。
「もとより、貴方達を害する気持ちは御座らん」と直重。
「しかし、甥の尚就なら、貴方達を亡き者にしてしまっていたかもしれませぬ。今回は留守居がまだ説得のできる次男の右衛門佐でよかったで御座る。どうか他領を検分する際には細心のご注意を」と、直重が鶴千代(俵三郎)に告げる。
「我らの不徳故に誤解を招いたもの、お気に召されるな」と、いつまでも申し訳なさげな直重を逆に労っていた。
(守就殿の嫡男・平左衛門尉尚就殿は叔父にこれほど恐れられているのか)勘九郎は、二人の会話を大人しく聞いていた。
「恥ずかしながら、私は謀略につぐ謀略の世に少々疲れていましてね。織田家の旗の下で天下が統一されることを願っているのです。それまで、我ら一族は助け合って戦国の世を生きねばならぬ、手荒なめに合わせて本当に申し訳なかった」と平謝りをする直重である。
(守就の弟・安藤直重殿は、この時代にあっても「信義」を大切にするお方のようだ)
「将監殿は優しいお方なのでしょう。もし、安藤家で何かあれば蒲生家にお越し下さい。今日のご厚情のことは鶴千代、生涯覚えておりますゆえ」と俵三郎こと、蒲生鶴千代は感謝の言葉をのべた。
「かたじけなきお言葉」直重は城門まで先導し勘九郎一行を見送った。
・・・・この時交わされた言葉は後年、本当の事となり、「本能寺の変」以降、直重は、蒲生氏郷により重臣として召し抱えられる。
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北方城から出てきた四人に、町人風の男が駆け寄ってきた。
「伴一郎に御座います。我が君、御無事でなによりです。北方城は警護が固く、救出できず申し訳ありませんでした」
「大丈夫、討ち入りすると、安藤家と事を構える事になるから、今回はこれで良かったのだ」
「はっ」
「しかし、伴ノ衆を寄せ付けぬ警護とは、安藤家の警備もたいしたものだな」
「さすが道三様の元懐刀ふところがたな、美濃屈指の“策略の家”とも呼ばれる理由が判った気がするよ」
道路脇の柳の影から、黒装束に4本の太刀を背負い、手裏剣を全身に仕込んだ姿で桜が現れた。
「皆さん御無事で」
「桜、迎えに来てくれたのか」
「凄い重装備だ、男平八も真っ青だ」と笑う勝蔵。
「勝蔵うるさい」と真剣に怒る。
「桜、心配かけたな」と俵三郎。
「戦国の世だ、いろいろある。来てくれて有難う」と男平八。
「若、出来る事なら次は桜も御供させて下さい。皆さんが父のように帰ってこなくなるのではないかと心配で」
(桜の本当の声だ)
「承知した」
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