200部:改造
「於勝、力を貸してくれるか?」
於八が、於勝の顔を覗き込む。
「利子は高いぞ」
「あの世で払う」
互いに冗談で返す。
「あの城門の傍まで行きたい。どうやって近づくかだが」
「突撃するのか? ここは俺の出番だな」
於八がニヤリと笑いながら、荷駄用の荷車の中から一台を指さす。
奇妙丸一行の荷物を載せて、簗田の荷駄隊が引いてきた物だ。
「藤島の坑道で見付けた物を貰い受けてきたのだ」
荷駄の荷物を下ろす於八。於勝に虎松と与平次も加わり三人が手伝う。荷車の底には鉄の板が張られていた。
「重い鉱物を運ぶための特別仕様だ」
「すっ、すごいな」
「こいつを、私と一緒に城門の前まで引っ張って行って、盾になるように設置して、倒れないように支えていて欲しい」
「なるほど。これでギリギリまで近づくのだな」
「一撃離脱ということですね?」
話を聞いていた楽呂左衛門が、於八の考えを読んで二人の傍にやって来た。
「しかし、速さが必要な場合、人力で城門正面まで押していくのは少し問題がありますね」
「ふぅむ」
距離を考えると確かに無理があるかもしれない。痛いところを突かれた気分の於八。
「私の国では、馬で車を引きます。これに少し手を加えれば、引っ張れるのではないでしょうか」
「なるほど、是非とも楽呂左衛門殿にご協力願いたい」
こうして奇妙丸の陣で、荷駄車改良の突貫工事が始まった。
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「これで良いでしょうか?」
於八が楽呂左衛門の指示を仰ぐ。
「まあまあですね」
様子を見ていた奇妙丸と山田勝盛に服部政友も、荷駄車の傍に来て、改造車の出来栄えをいろいろと見て回る。
「これは、馬が何頭必要なのだ?」
奇妙丸の問いを受けて、楽呂左衛門が進み出る。
「大鹿毛なら一頭、他の馬なら二頭ほどで動くでしょうか。とりあえず、やってみましょう」
虎松に与平次が、馬を二頭連れてきた。
「馬はどうやって操るのだ?」
「荷台からです」
「おおっ」
やっと馬車の扱い方の想像がついた一同。
「これは唐の書物にある戦車というものではないか?」
奇妙丸が隣にいる政友に聞く。
「名前は判りませぬが、文に記されるそのものの様ですね」
政友も当てはまると思う。
楽呂左衛門が車の説明をしながら、手綱を持って荷台に立つ。
「わが祖国では、街道が石畳となっていますから大丈夫ですが、この国では実用向きではないですね。城門前ならば踏み固められていますので使用することは可能でしょう」
「なるほど」
自国に無い理由に納得する一同。
「では、ハイヤッ!」
と声をかけて馬車を走らせる呂左衛門。
「「おおっ!」」
「俺ものせてー」
「俺も乗りたい!」と戦車の見事な走りぶりをみて、乗りたがる虎松と与平。
「とても荷駄車だったとは思えないな」
南蛮国の石畳みの道路と、馬車の姿に思いを馳せる。
「於勝にはこれを」於八が荷車の鉄板を引きはがして作った陣盾を渡す。試し撃ちもして充分な強度であることは確認している。
「よし! 盾は俺に任せろ!」
一回り走り終えた荷馬車に盾を載せようとするが、於勝でも鉄板張りの盾は流石に重そうだ。
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