20部:南蛮あげもの屋
馬に荷物をのせ、徒歩の旅をする一行が居る。
過日、四人が紫直垂姿にて騎乗し街道を激走すると、非常に目立つということを学んでからは、
津島社家の侍らしい身なりをして、〈牛頭天王社〉巡礼の旅をしているように見せている。
「若、次に向かうは本巣北方城ですね」
「地図によると、ここからは二里程岐阜に戻ります」
http://17453.mitemin.net/i186257/
<画面左下の方、大垣城の右に北方城>
「今回の旅は城や町、民衆の暮らしぶりを見たいからね。長山村はじっくり滞在できなかったし、強行軍は行った気がしないよ」
「そうですね。やっぱりその土地の特産品を食べて記憶に残していかないと」と喰いしんぼの旅に移行している勝蔵。
「北方は西美濃三人衆の安藤守就殿の領内ですね。安藤殿は我が家と先祖を同じくする藤原秀郷後裔の一族です」と俵三郎。
「我らの先祖は、鎌倉幕府の頃に伊賀氏と称し執権北条氏の執事をしていました。それから二階堂氏を名乗り足利幕府の成立にも関わり。各地に一族が割拠しております」と続けた。
「さすが、新皇・平将門様を倒した一族だな」と俵藤太秀郷の伝説に思いを馳せる勘九郎。
「安藤殿は他に江渡城なども管轄しておられます。守就殿は道三様の信頼が厚く、信長様が三河に遠征の際、援兵を率いて清州城の守備を任される程でした。
しかし、長良川合戦では他の西美濃三人衆とともに義龍殿の下剋上に協力されたのですが、やはり先代と親しかった事もあり義龍・龍興殿の代には次第に冷遇され、不遇に逆らうため、婿の竹中半兵衛殿と同心して、岐阜城を奪取して実力を示されたとか、侮れないものを持つことだけは確かです」と男平八。
「北美濃の遠藤殿も娘婿です」と補足する森勝蔵。
「梶原家とも縁戚であります」と男平八。
「意外な縁があるな、武士の業界は狭いなあ」と俵三郎がつぶやく。
勘九郎は、ふと隣を歩く桜が気になった。
「桜は静かだな」
「申し訳ありません」と困った顔をする桜。
「いや、大人しいのだなと思ってな」
「任務ですので、私の事はお気遣いなく」
「まぁ、無理に話せとは言わないから、気付いた事が何かあったら遠慮なく教えてくれ」
「承知いたしました」
(堅いなぁ、まだ距離があるかな)
「あの川を渡って、土手を越えた先に、なにやら街並みがありそうですな。炊事の煙が幾筋か立ちのぼっておりまする」
「木曽川、長良川の流れは雄大で、なおかつ複雑だな」
「それゆえ、管理も難しい」
「そうそう、庄内川を下って行った、あの黒覆面の男は、何処にでも現れますな」
「策士のようでもあるし手強い相手かも知れぬ」
「正体は何者なのでしょうね」
「うむ、本願寺に関係のあるものとしか今のところは判らぬな」
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本巣北方城の城下町。
「ここも繁栄しているな」
「尾張・美濃の国境近くでもあり、両国の関係が良くなったので、更に便利になったようです」
「戦争から町も復興し、活気にあふれている。私はこの光景が好きだ」
「領民のあの笑顔を守りたいですね」
孤児であった桜も同じ気持ちだった。
(自分の様な境遇を誰にも送ってほしくはない)
桜の幼き頃、父・伴十左衛門が今川義元軍に討ち取られてから、家族は路頭に迷い、兄たちと共に、縁戚が居るという近江甲賀郷の富永荘に移り住み、甲賀衆二十一家のひとつ伴一族の中で、忍術を訓練されながら育ったのだった。
六角家滅亡の際、兄たちが御家復興の為に、もともと父・十左衛門が仕えていた織田家へ仕官すると決め岐阜まで出てきたが、任官のつてもなく困っていたところで、運よく奇妙丸達を救い直属の御庭番として召し抱えてもらうことが出来たのだ。
「おい、“南蛮あげもの”ってなんだ」と俵三郎が、気になる看板をみつけた。
「なんだろう」南蛮文化に、なにかと興味がある男平八も気になるようだ。
「食べ物じゃないか、食べてみたいぞ」と食べ物の想像を膨らませる勝蔵。
「けっこう混んでいるけど」と人混みの気になる勘九郎。
「あそこに並べばいいのかな」と行く気満々の勝蔵。
「うむ、並んでみよう」と突入宣言の俵三郎。
丁度。お腹が空いてきた頃合いだったので、育ち盛りの勝蔵、俵三郎はもう止まらない。
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