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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十八話(藤島編)
195/404

195部:陥没

「あの黒煙はなんだ?」

岩崎城の丹羽氏織が、藤島城近くで鳴った轟音に続き、空高く舞い上がった黒煙に驚く。

「我々も、あんな黒煙を見るのは初めてです」

本郷が代表して答える。


本郷を始め、上田や周りの者に、あの方向に何かあったか心当たりはないか問う。

「藤島の者どもが作った坑道くらいでしょうか」

「そうだよな」

と自分以外の者も、真相は分からないということで、納得する。

(いったい、なにがあったのだ・・・)

休息に不安がこみあげる氏織だ。


「落盤でもしたか。まぁ、あの方向なら、藤島城を囲む三人は大丈夫だろう」

「そうですね」

相槌を打つ上田だった。


*****


「あの爆音は?」

岩崎城を囲む軍勢の中で総大将・林秀貞が、天空にこだます轟音に驚く。

兵士たちも一様に驚き、これから天変地異が起きるのでは?とざわついている。

息子の林勝吉が、山内伊右衛門一豊と共に、異変を知らせにやって来た。

「秀貞殿、あちらの空を」

一豊の指さす方向を見る秀貞。

「なんだ、あの煙は? 十騎程、至急調べに行かせろ」

「はっ」

勝吉が林家譜代の者を呼び、調べに向かわせる。

「岩崎の陽動かもしれぬ、本城の囲みを厳重にせよ! 北と南の陣にも、そう伝えよ」

「ははー!」

譜代衆達が、手分けして各陣所へ走って行った。


*****


丘がなくなり、大地が陥没している。

森の中にぽっかり口を開けた大穴は、4間(7.2m)程の深さに、一丁(109m)以上の広さだ。木の根が崩落を留めている所もあるが、未だ穴の縁は何かきっかけがあれば崩落し、近寄るのは危険な状況だ。

「ようやく、煙が風で流れて行ったようだな。どうだ?」

ヒヒーンと時おり穴の中から馬の悲し気な嘶きが聞こえてくる。

「ほぼ全滅したんじゃないでしょうか」

勝盛が穴の中を見渡して呟く。

「よく、思いつきましたね」と感心する汎秀。

「常に備えよ、父上から厳命されてきた事を実践したまでだ」

特に感動のない奇妙丸。

「見事な策です!」

於勝が尊敬のまなざしで奇妙丸をみる。

「しかし、人命を奪ってしまったかもしれぬ・・」

「織田家の人間が傷つくのを守られただけです。自分を責めないで下さい」

於八が励ます。奇妙丸は優しすぎると、時々心配になる。

「出来れば、このような手は打ちたくなかった」

「若様は間違っていませんよ」

桜の声が後ろからした。

「うん?」

桜が、虎松と与助を連れて傍に来る。

「ありがとうございます。若様」

「そう言ってもらえると救われる」

「若様、勝ちましたね!」

と虎松は素直に喜んでいる。

「すごい閃きでした。大鹿毛もかっこよかった」

と与平次。

「犠牲を多く出さないための、最小限の犠牲だ」

自分に言い聞かせるように呟く奇妙丸だった。

(大切な人命、そうだ、今やるべきことがある)

「皆に頼みがある」

「穴に入るのは危険かもしれぬが、よく安全を確かめてから入って、出来るだけ多くの人を救助してくれ」

「ははっ」

救助活動は山田隊、平手隊、簗田隊の奇妙丸軍の総力で、そして山師の原衆も手伝ってくれるという。


*****


「奇妙丸様、ご覧くだされ」

原与助がやって来た。

「どうしたのだ」

与助は興奮している。

「私についてきて下さいませ」

山師達に囲まれて奇妙丸が大穴を見に行く。

「あちらを」

「凄い岩壁だな」

「崖崩れによって、新たな鉱物の露頭が現れました」

「そうなのか?!」

露出した岩石の断面に、蜘蛛の巣の様に筋状に金銀に輝く鉱物が混じる。

「奇妙丸様、これを見て下さい」

与助が鉄棒を岩のひび割れに突きたて、割れ口を拡げて剥がす様に上手に割る。

割れたばかりの岩面が太陽の光を受けて、極彩色に光っている。

「これは、ものすごい鉱脈ではないか?」

「はい」原与助が頷く。

「こんなものが眠っていたとは」

「奇妙丸様のおかげで、我らが捜していたものが見つかりました」

「はっはっは、私よりも、於八の爆薬があってこそだ」

於八を褒める奇妙丸。

「あの坑道を吹き飛ばした物は、どうしたのですか?」

「あれは、私の乳兄弟、梶原於八が開発したものだ」

「於八殿、素晴らしい成果ですぞ」

与助が称賛する。

於八が改良を重ね、楽呂左衛門が協力して更に威力の増した火薬が、この岩盤を吹き飛ばしてしまったのだ。

「於八殿の爆薬の製法、我ら鉱夫にご伝授願いませぬか?」

於八に協力した、楽呂左衛門に力強く背中を叩かれる。

「山師の仕事に、技術革新をおこしたのではないか於八」

「ははは」

思わぬ副産物に苦笑いする於八だった。


*****


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