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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十八話(藤島編)
194/404

194部:敵陣

「たのもう!」

先頭の勝盛が大声を上げる。

「どこの者だ?」

陣幕の外に篠田を始め、原田達がぞろぞろと出てくる。

「私は織田家嫡男、奇妙丸である!」

「奇妙丸!?」

どうしてここにいる?と呆気にとられる三人。

「岡崎に来ていると聞いていたが、本物か?証拠はあるのか?」

と篠田が聞き返す。

「この相州貞宗が目に入らぬかっ!」と言って、刀を天にかざす。

三人は目を細めて手に持ったものを見ようとするが、遠くてよく分からない。


「で、その奇妙丸が何の用だ?」

偽物でも、何か用があるなら早く要件を言えという態度の原田氏重と重種。

「お主達、なんの不満あって、藤島城を襲うのだ?」

奇妙丸の一言にカチンとくる原田氏重。

「我らから所領を奪った織田家が憎いからだろ!」

怒り声で言い返す。

奇妙丸の前で失礼な物言いに、逆切れ気味に、言い返す勝盛。

「負けた今川義元に靡いたのはお主達であろう!」

原田氏重よりも、やや冷静な篠田が弁解する。

「違う。我々は斯波家なきあと、自立の道を進もうとしただけだ」


「皆が自立して勝手な振る舞いをすれば、天下の静謐はより遠いものとなってしまうではないか?」

奇妙丸が、説得しようと言葉を選びながら話してみる。

しかし、年下の若者に説教じみたことを言われて原田氏重がまた怒り出した。

「お主と話をしていても始まらん!」

始まらぬと言われても、本音で話し合わなければ、と気を取り直す奇妙丸。

「大人しく蟄居先に戻るのなら、追いかけはせぬ。今は兵を収めてはくれぬか?」

できるだけ、落ち着いて話をしようと試みる奇妙丸だが、三人は聞く耳をもたない。

「我ら覚悟は決めている。三河を追われた時、伊勢に迎えてくれた北畠殿の恩顧にも応えねばならぬ」

「むぅ」

唸る奇妙丸。

「決裂ですね、気を付けてください」

勝盛が周囲の十騎に目くばせする。

(できれば、話し合いで決着をつけたかった)

「奇妙丸様」

ともう一度呼びかける勝盛。

「では、出直してまいる!さらばじゃ!」

大鹿毛の馬首を切り返し、鞭を入れ、戻り道を全力でかける奇妙丸。十騎も一斉に来た道を戻る。


「皆、私から離れるなよ!」

「「はいっ!!」」

「ゆくぞっ!大鹿毛!!」


「ああっ!逃げるぞ」

いきなりの撤退に慌てる三人。

「逃げたぞ!」

「追いかけろー!!」

「討て!撃て!」

鉄砲を撃つことは叶わず、弓射が行われるが、奇妙丸達は既に射程外だ。

「逃すなっ!」

法螺貝が吹き鳴らされ、銅鑼が叩かれる。


騎馬を持ってきて追う体制になる三人。

「織田家の嫡男だ!捕えて信長を脅迫するぞー!」

「逃すな!続けっ!!」

「「おおっ!」」


奇妙丸十騎に大掛かりすぎる程だが、織田家の嫡男を捕える機会だ。

両原田、篠田の軍勢が、城の囲みを顧みず一斉に動き始める。総軍をあげて奇妙丸の追跡が始まった。


*****


「若様!全軍で追いかけてきますぞ!」

「森を抜けてあの丘まで、駆け抜けよ!!」

「はっ!」

(もの凄い食いつきようだな。そこまで飢えているのか)


「振り返るな!我を抜いてみよ!」

十一騎、全員本気で馬を懸けさせている。

しかし、大鹿毛が早すぎて、後のものはついてゆくので精一杯だ。

馬上の武者たちは、山田勝盛を始め大鹿毛を抜く為の競争になり、次第に馬の走らせ方が研ぎ澄まされてゆく。


「織田は代々、逃げ足が速い!」

あまりの速度で離れてゆくので、中条・原田軍も本気で駆ける。

足軽たちも、先を争って全力で森の中の獣道を駆ける。

気分は落ち武者狩りだ。

「待てっ、待てー!」


「全員!丘を越えたなっ!!?」

「「ハイ!」」

「出来るだけ遠くまで駆けるぞ!」

「「おうっ!」」


追いかけてきた足の速い者が、奇妙丸一行に続いて丘頂まで到達し、坂を下り始める。

「今だ!!」

政友が一発、空砲を空に向かって放つ。

ドーン!

と銃声がこだまする。


「合図だっ!」

於八が抗道に松明を放り込む。

「点火!」

楽呂左衛門も別の坑道に松明を投げ入れる。


「「ドゴォーーーーーーーン!!!!!!!!!!!!」」

地中からこだまする地鳴りとともに、丘の至る所で土煙が吹き上がる!

「「なんだァ?」」

「山崩れだ!」

「「ううぅわああああぁぁぁ!!!」」

土煙がひとつの黒雲の様になり、まるで火山の噴火が起きたように、空高くまで舞い上がって行く。

人の叫び声らしいものも、山崩れの轟音に飲まれ聞こえなくなる。


松明を放り込んだ後、できるだけその場から離れた於八達が、政友のいる巨岩の傍に集まってきた。

「す、凄いな。まったく中が見えなくなった」

簗田が呆気にとられている。

「大惨事が起きている事は間違いない」

返答する政友。

「うむ」

重く頷く簗田だった。


*****


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