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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十八話(藤島編)
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190部:藤島城

岩崎丹羽軍本陣。

藤島城の東西南北の四方には、既に各陣営の陣幕が張られ城囲みの準備は、ほぼ終了した状況だ。

本陣の陣幕の中央には、大将達が城に向かって横一列に並んで一堂に会している。

中央には、毛皮の陣羽織を羽織った老武者・岩崎丹羽右近大夫氏織が座り、藤崎城を望んでいた。

そして、年の頃は氏織よりもやや若いが、十分老武者といってよい白髪の三人に話しかけている。

「我らが共闘すれば、織田家など軽く駆逐できるのではないか?」

氏織は陽気な声だ。

「北畠氏が本気になった今、我々の忍従の日々も終わりだ!」

拳を握りしめる中条家の陣代・篠田。中條軍を率いるのは中條秀正の陣代・篠田藤十郎貞方(定方)だった。

・・・・・篠田貞方は、中條将監家の本拠・八草城の南にある宮口城主。原田氏の福谷城からは北東に位置する。


「我々も、伊勢の神戦かみいくさによって再起する絶好の機会」

原田氏重が伊勢に向かって手を合わせる。

・・・・・原田右衛門尉氏重は、藤島城の北東にある福谷うきがい城主。山口教継の調略を受け中條等とともに今川方へと離反し、居城・福谷城は柴田勝家により三度攻められるに至った。現在は福谷城を退去し、一門の拠る山間部足助地方の久木城に隠居していた。

「藤島を陥れて、柴田の下社城も落としてくれるわ」

福谷うきがい原田右衛門尉氏重は、柴田・荒川軍により、三度も居城を攻撃された恨みがある。多くの一族を失い織田嫌いは徹底している。


「岩崎の御子息は、伊勢に従軍されておられるのでは?」

と氏織の息子、氏勝を気にかける原田源左衛門重種。

「息子は息子、我は我。戦国の世の習いだ、中條将監殿もそうであろう?」

氏織も、過去の岩崎と藤島の本家分家対立の如く、中條家の内紛を知っている。

「秀正殿は、分家の中条小一郎家忠に、将監を名乗る資格はないとおっしゃっていました」

「お主の行動を黙認するということじゃな」

力強く頷く篠田。

「両原田殿もご参陣、有難い」

篠田が、原田重種と氏重に謝す。


「織田家が敗れた今こそ旧領土を取り戻す絶好の機会」

明知原田重種は、織田家により明知城を追われていた。

・・・・・原田源左衛門重種、三河国明知城。九州の筑紫に本拠を置く古代豪族・大蔵氏の後裔である。大蔵原田氏は、平ノ清盛の頃は大宰府長官や、山城国守護を勤めた有力武家だった。桶狭間の合戦後に、織田軍の三河侵攻に敗北し、三河国足助久木城の原田藤左衛門種友を頼り、三河安代城を拠点に再起に掛けるつもりだ。


本陣の様子を、大木の上から覗きみていた伴ノ五郎左衛門。

(丹羽軍千、中条篠田軍四百、明知原田軍三百、福谷原田軍三百。これは藤島城を落とす気満々だな。急ぎ奇妙丸様に連絡せねば)


*****


伴ノ五郎が帰還し、藤島城を囲む軍勢の状況が判る。

「ご苦労だった。敵方は二千兵か、旧勢力が勢揃いだな」

奇妙丸は天を仰ぎ、空高い雲を見る。

(祖父ならばどうしただろうか・・・)

かつて、祖父・信秀公と共闘した佐久間入道全孝が西三河山間部に侵攻し、三宅氏の広瀬城を奪取して、一時はこの地方を勢力下に置いたこともあった。皆、斯波武衛家の下で力を合わせたのだ。

織田家が将軍家の軍事指導者になった今、あの頃の様に協力する関係に戻れないのだろうか。


「我々の兵力では、藤島城救援は厳しく思えますが」

平手汎秀が不安を口にする。

状況を冷静に判断し踏みとどまることも必要だ。

「ここで合戦をして、騒ぎを大きくするわけにもいくまい。領内の騒乱は父上の意思に反することだ。どうしたものか・・」

奇妙丸が考える横で、勝盛が疑問に思うことを口に出した。

「それにしても、原田氏に中条氏はどうしてこの内地にそれほどまでの拘りをもつのだろうか。簗田殿は何か知っていますか」

「知立で鉱石を見られましたか?」

「うん」

「あれは火山からできる岩です。おそらくあれが目的かと」

「そうなのか?」

知立城の土蔵で見た岩石の山を思い浮かべる。

「あの白い岩(花崗岩)の事だな」

楽呂左衛門が、口を開いた。

「奇妙丸様、あれにはいろいろな種類の金属が含まれています」

「そうなのか」

「そうです。あの白岩(花崗岩)には、銅のほかにも金や銀が含まれている場合もあります」

「「おおぅ」」

驚きの声を上げる一同。他に誰か聞いている者がいないか周りを確認する於八に於勝。

「それが含まれる大地を川が削るとどうなりますか?」

「砂金となって川底に溜まるな」

「ご名答でーす」

ニコリと笑って久々の南蛮なまりで応える。

「奴らは金目当てか?」

「おそらく」

「う~ん」

(確かに、岐阜城の物見楼閣の石垣に囲まれた地下の間には、祖父の代から蓄えた、数え切れぬ皮袋が保管され、それには砂金がぎっしり詰められていると聞いた事がある)

「この土地が目的ならば、引き上げてくれることはなさそうだな」

「そうですね」

伴ノ一郎左が相槌を打つ。

「ここで、我武者羅に突撃するのは、一か八か過ぎる」

(先陣を切らせて下さい!と言いかけた於八と於勝が口ごもる)

「戦に持ち込まずに、兵を退かせる方法をみつけねば。近隣の諸城に増援を呼ぶか、しかし、それからで間に合うのか」

更に考え込む奇妙丸。

「荒川勢は三百程だろうか? 取り急ぎ荒川を救出せねばならぬ。死なせる訳にはいかぬ」

「どうしますか、奇妙丸様?」

判断を聞く楽呂左衛門。

奇妙丸が攻めると言えば、全力で応えようと心に決めている。


*****


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