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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十八話(藤島編)
188/404

188部:沓掛城

http://17453.mitemin.net/i219605/

挿絵(By みてみん)

奇妙丸の道中「沓掛城周辺図」

「あれが、今川義元が本陣を置いた沓掛くつかけ城か」

さかい川を渡河し、沓掛城が見えてきた。

「拠点に相応しい豪壮な城構えですね。今川義元の妹婿・浅井小四郎政敏が当時の城代だったそうですが」

於八の話に、服部政友が頷く。


・・・・沓掛くつかけ城 新知立城(人夫城)の北西、間に境川を挟んで、一里程の距離に位置する。かつて織田信秀の家臣・近藤九十郎景春が居城としていたが、永禄2年(1559)年に今川義元方に転じた。

今川義元は尾張侵攻の際、ここを本陣に定めた。この城から先の進路が、義元の運命を決定する。

此処から、鎌倉街道を北上し岩崎城から守山城に至る道順か、鳴海城から熱田を抑え清州に至る道順か、大高城に入り海路を服部左京亮友貞の水軍千隻と合流し津島から清州に至るかという、三つの進軍行路から一つを選ぶことになる。

信長は、天文23(1554)年の三河知多の「村木城攻め」から6年かけて、義元の行路を誘導するように周到に心理戦を展開していた。

永禄3(1560)年義元はまんまと罠にはまり鳴海城へと誘導されて、大将同士の本隊対決に持ち込まれ敗死する失態を演じてしまった。

「桶狭間の合戦」後に、織田軍の総攻撃を受け沓掛城は落城。裏切り者である元城主の近藤九十郎景春は戦死した。


現在の沓掛城の主は、桶狭間に勲功第一と称された簗田出羽守正綱が三千貫の領地を与えられ城主となっている。息子の鬼九郎広正(のちに別喜右近)は、信長に従って伊勢に出陣中だ。


・・・・簗田家は、尾張春日井郡の豪族で尾張守護・斯波家の旧臣だった。守護代・清州織田家家老の那古野氏とも深い関係がある。


鋳物師・水野太郎左衛門の案内もあり、沓掛城には問題なく入城出来た。

奇妙丸は清州城で出羽守に面会しているので、安心して入城する。

「奇妙丸様、よくぞ遠い所をお越しくださいました。平手殿もご苦労」

大手門まで迎えに来て、挨拶する簗田出羽守。

「海賊討伐の件では世話になったな」

奇妙丸は馬を預けて、出羽守と握手する。

「お役に立ち、幸いに御座います」

簗田氏が入城してから9年、城下は良く整備され、城内も10棟の大きな土蔵と、武器庫兼倉庫として使われている30間程の幅のある長屋と、平野部で生産された農作物等を保管する長屋が2棟ある。


水野が簗田に荷駄隊の荷物を見せる。

「出羽守様、今回は陶器と鉄茶釜等を千個ずつ持ってまいりました」

(知立から、このような精巧な壺や皿が運び出されていたとは驚きだな! 尾張産の陶器が全国へと販売されてゆくのか)

平手は茶の湯をたしなむので、焼き物に少々興味があったのだが、あまりにも圧倒的な物量に驚いていた。

「有難い、こちらは白粘土と砂鉄とすずに、あとは釉薬・顔料を揃えてある。ただ銅の搬入は止まってしまったので品薄だ」

「鉱脈が尽きたのですか?」

「減産したと連絡が来ないので判らぬ。こちらから藤島城へ確認に出た使者も戻って来ぬ」

「それは・・」

水野太郎左衛門に嫌な予感がよぎる。


「すまぬが、藤島城には私も興味があるのだ。同行してもよいか?」

奇妙丸はすぐにでも確かめたくなった。

「若様自らですか? 連絡が取れぬゆえ何かあるやもしれませぬが」と躊躇う出羽守。

自領で奇妙丸に何かあれば、信長から統治の不行き届きが責められるかもしれない。

「私共が安全を確認してからでは?」

「いや、それでは時間がもったいない、行こう。平手もいるし、勝盛の率いる弓衆もいるから安心してくれ。百聞は一見にしかずだ」

「では、私も同行します。我領内では若様に何人たりとも寄せ付けませぬぞ。出立の準備をしますので少々お待ちを」

簗田出羽守が手の者を呼んで、出陣する準備に取り掛かった。


その間に水野の商隊が、慣れた手つきで荷駄から鋳物や陶磁器を取り出し、敷き並べた茣蓙の上に並べて仕分けし点数を確認して館内に運び入れる。代わりに簗田氏の土蔵からは原材料が運び出され、空いた荷駄に乗せられている。沓掛からは簗田の商隊が引き継ぎ、尾張の南北に分れて、各城下に運搬し、商品が販売されてゆくという。流通の要所となっている様子だ。


奇妙丸が、楽呂左衛門と桜を伴って沓掛城内を見ている間に、政友は、簗田家の武器庫に保管された鎧の在庫から、自分用に最新の唐風冠形の変わり兜と藤色の当世具足を買い求めた。

兜は閻魔王の冠のようで迫力がある。鎧は、奇妙丸の鎧よりも薄い紫色だ。

政友は更に、服部家の武者達の防具も発注しておいた。海賊衆が将来、戦場で武者働きをする時の為のものだ。

政友の下には弥富の大安宅船が復活した時に、海上運搬と商船の警護を約束をすることで、津島・熱田・大浜の商人がお金を投資してくれる。政友の懐は潤ってきていたのだ。


平手と山田も、消費した矢柄や、鉄砲玉、火薬を買い上げ、配下の武者達に支給する。

武者達は、折れた槍や、欠けた刀剣を修理補修に預けるか、売却して代わりの物を手に入れる。

於八と於勝、更に虎松に与平も、政友の周りであれが欲しい、これが欲しいと武器・武具の購入資金をねだっている。

政友は、これからの虎松と与平の旅の安全を考えて、藤色の胴丸に脛当てを買い与えていた。


*****

「設定集」の方に、奇妙丸の連枝れんし衆(織田一族)。

本編登場人物編を追加しました。

小説では歴史上影の薄い人物が活躍できるようにしていきたいと思います。

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