182部:逢妻川
隊列が、川の半ばまで差し掛かったところで、背後から鬨の声があがる。
「しまった、もう来たか」
「早く渡河を!」
服部政友が、河辺に上がった先頭部隊に伝令に走る。前が詰まってしまえば、川の半ばに居る後方部隊が岸に上れない。
振り返った信昌が旗印に気付く。
「あの旗印は、矢田!」
・・・・矢田氏とは、鎌倉時代の名族で、源ノ頼朝の乳母の出身家・伊勢守護山内首藤氏の重臣だった伊勢国桑名の豪族・矢田氏が本家だ。
その矢田氏分流の矢田作十郎が、三河の境川流域を支配して居たが、(1563)年に松平家康に反抗して三河一揆の首領として立ち上がり、一年間抵抗したが敗北し一族は飛散していた。
「奇妙丸様、急ぎ城内へ!!」
信昌は馬を返して後続の250騎に加わり殿軍を引き受け、渡河し終わった750騎を知立城へ生還させるつもりだ。
しかし、信昌軍の先行していた先鋒の250騎もとって返して、主と共に矢田軍を迎え撃つつもりでいる。
「くっ、どうすればよい」
自分も引き返すべきか迷う奇妙丸。
傍で控える高橋虎松に三宅与平次も不安げな表情を浮かべる。
ハッとなった奇妙丸。
指導者の迷いは、傍に居る者を怯えさせてしまう。
「奇妙丸様は、とにかく城に入り吉報をお待ちください!」
山田勝盛は主の命を守ることが優先だ。
「城に入り、後詰を編成して信昌殿を救援しましょう!」
於八が策を進言する。
「そうだな、ならば急げ!」
奇妙丸の一団500騎は、急ぎ知立城を目指す。
信昌軍の最後尾が、矢田一揆勢との交戦状態に入り矢戦がはじまる。
盾を後尾に集め、じっと耐える織田勢。
背水の状況を脱するべく、じりじりと後退して、川を渡ろうとする。
矢田一揆は織田軍に追いつくべく、弓の射撃を止め、騎馬衆が突撃を試みる。
しかし、河原石が多い場所なので、騎馬も思うほどに速度がでない。
一揆勢が川の半ばに来たところで、引き返してきた先鋒部隊が槍を用意し構えて押し出し、矢田勢の騎馬を迎え撃つ。
更に弓隊が、居並べた盾の後ろに編成され、河原から援護射撃をする。
両陣営が川を挟んで向かい合う形になり。弓射と石投げを繰り返す。
一揆勢の鉄砲は少数なので、決め手を欠いて戦線が膠着する。
一揆勢千に対して、五百の信昌隊は渡河を阻止して良く持ちこたえている。
「どうして今頃、過去の亡霊が?」
(桑名にある矢田城で、不遇をかこっていた三河矢田勢は、北畠氏の反撃を機会に、三河境川の旧領を奪還すべく集結していたのだった)
「知らぬのか? 伊勢で織田軍が敗れたぞ」
対岸で一揆衆が勝ち誇ったように「北畠の神戦じゃー!!」とまくしたてる。
「何を馬鹿なっ」
信昌隊に動揺が走る。各地で一揆が起きれば、織田勢は劣勢となり「落ち武者狩り」状態になってしまうだろう。
「はっはっは、本当の事だ!」
一揆の頭領・矢田十郎が騎馬に乗って現れる。浪人のはずだが立派な甲冑を身にまとっている。
「知立城、奪取させてもらう」
「そうはいくか!」
信昌が采配を握り、鉄砲衆を呼び集めた。
「大変です、渡河の際に大半の銃の火縄が濡れてしまっています」
「なんだとっ!?」
悪い時に悪いことは重なる。
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2016年11月「ツギクルの合戦」敗退。
(のびしろですね!)
次、頑張ろー。




