18部:小野城陥落
「伝家の宝刀・相州貞宗である!」
「きっ、奇妙丸様」
紫直垂をみて岐阜の若の直属の武者とは認識していたが、
まさか奇妙丸本人がいるとは、小野城の侍衆に動揺が走る。
「刀を修め、許しを請う者は赦免する」
織田嫡男の宣言にさすがに一瞬、躊躇する城方の侍たち。
「この横幕信兼、織田の家臣になった覚えは御座らん!やれ、皆の者!」
「わからずやがっ」と思わず俵三郎(鶴千代)は叫んでしまう。
「勝・男・俵、やっちゃいましょう」
「おうっ!」
黒装束に早着替えし駆けつけた桜が、懐に手をしのばせ、十指に挟んだ八本手裏剣を、狙いを付けた者に投げつけた。
城の各所に忍んでいた伴兄弟が一斉に城方の侍の背を目掛け手裏剣を投じる。
「うお」
「うわあ」
横幕方の刀を構えた者達が、うめき声をあげ倒れる。
「し、忍の者か」
動揺の走ったところで、四人は残りの者へ一斉に切りかかり、たちどころに反抗するものを往なしてゆく。
「信兼、覚悟せい!」
「恥辱」
勘九郎に切りかかろうとする横幕信兼。
しかし、その切っ先は勘九郎には届かない。
「ぐあっ!」断末魔の声をあげる信兼の眉間には、手裏剣が突き立っていた。
「この者、若が斬るほどの価値もありません」桜が止めを刺したようだ。
殺陣に対し、驚くほど冷静な桜に奇妙丸は驚いた。
(桜はどのような経験をつんできたのだろう)
しばらくして、氏家家の老臣・宮川但馬守が、小野城が襲撃されたとの連絡に完全武装した一手を引き連れて現れた。
しかし、門前で待ち構える紫直垂の四人を見て、これはマズイと一斉に下馬する。
「我ら美濃の治安を守るもの、横幕信兼に不届きな行いあり無礼討ちした、証拠は是なる起請文にあり」
「はいっ面目ござりませぬ」
「無礼討ちの罪状はこの者たちにきいてくれ」
と縄で縛られた城内の者を指さす。
「降伏した者は赦免した、良しなに取り扱ってやってくれ」
「寛大な御処置に感謝いたします」
「氏家殿の家臣とはいえ、織田の家紋の下で勝手な振る舞いは許さぬ。肝に銘じよ」
「はっはー」
「我々としてもこの件は内密にしたい。氏家殿にとってもそれがよかろう。それでは、後の事はまかせたぞ」
「承知つかまつりました」話がついたので、その場をさっていく4人。
「宮川様、よろしかったのですか」
「あの四人になにかあったら、当家など消し飛ぶわ」
「何者なのです」
「この事は決して口外するではない。冷や汗ものじゃ。」
(それにしても、小城とはいえ、たったの4人で城を落とすとは、織田家は末恐ろしいの)
再び胆を冷やす宮川但馬守だった。
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