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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十六話(岡崎城編)
177/404

177部:お目付

「七万の大軍とは、織田の勝利に間違いなしでございますな」


次席に座する東条松平家忠が、珍しく発言する。それほど驚き興奮しているようだ。

「伊勢国司の時代も、もう終わりじゃ」

北畠氏の滅亡を嬉しそうに言う家康。

ざわつく広間。

国衆には、これからの時代、自分達はどうなってゆくのだろうという不安感が強くなった様子だ。

広間の下座から声がする。

「三河には、南朝に身を投じた武士団も多くあり、なにやら寂しい気持ちもありますな」

南朝の菊一揆旗頭の子孫である大河内善一郎正綱が呟く。

伊勢国司・北畠氏とはともに北朝軍と戦った仲だ。

「我らが、新しき時代をつくってゆくのだ」

牧野家の稲垣が大きな声で皆を叱咤する。

稲垣には陣代として、東三河に覇を唱えた牧野家を引っ張ってきた自負がある。

「そうだ、我らが擁立した足利義秋(義昭)が、将軍となり室町幕府は再生したばかりだ」

昨年、援軍旗頭の松平信一とともに、織田家の上洛軍に加わった三河衆達も多数いる。

「「おぅ」」

時代に淘汰されて、消えてゆくものは消えてゆく。今は自らの運命は自分で切り開いてゆくしかない。


「私からも、三河ノ衆に報告する事がある!」

家康が声を上げる。

「信長殿の要請で、各地に目付殿を任命し置くことになった。もう知っている者もいると思う」

お目付けが来ると聞いて驚く三河衆。

それは家康と信長が合意の上でなのか、それとも家康が土地を横領しようとしているのか。

「そ奴らの所領はどうなるのです? 我々の土地が削られるのですか?」

不安の声をあげる国衆。

「いや、目付殿たちは皆、本貫地は尾張や伊勢に持つ為、城代として各地に置かれるだけだ。城番を任せるだけで良い。城を預けると考えてくれ。それに兵糧を買う銭を我らに払ってくれるそうだ。ただで警備もしてもらえて一石二鳥ではないか。はっはっは」

(これが父の言っていた事か、各豪族の独立の動きに釘をさしたのだな。それにしても、上手くまとめた堀久太郎秀政は流石だ)

「私の聞いたところでは、確か」

懐から書状を取り出して読む家康。


各将の中で、反発する気持ちもあるが、このまま織田家が天下に近くなるのであれば、ここで織田家と対立することは得策ではない。

今は皆、この方針に服するしかなかった。

「よろしいかな?」

「ははーっ」

国衆達が従う事を決めた。

不安そうな豪族たちは未だ心の底からは承服しかねているのだろう。


「父に代わり、お礼を申し上げる」

奇妙丸は立ち上がり、丁寧にお辞儀をした。

奇妙丸の態度に誠意を見て、大給松平親乗が応じる。

「はっはっは、奇妙丸殿。我ら、奇妙丸殿を推して参りますぞ」

三河の長老たちが頷く。

「有難い。宜しく頼む」


豪族たちには、お目付が暴走したら、奇妙丸に陳情すればなんとかしてくれるだろうと期待が膨らむ。

織田奇妙丸に距離を近づけつつある老将達をみて、

家康は心の中で舌打ちした。

「では、おひらきにいたすか」と家康が会議の終了を宣言する。


「「ははーーーー」」

浜松衆達が勢いよく返事する。それに釣られて全員お辞儀をして会議は幕を閉じた。


大広間から、三河衆達がぞろぞろと外へ向かう。

国衆達は、用意されたニノ丸、三ノ丸の休息所や、城外の寺にそれぞれ根拠地を置いている。

三河衆にとっては、正月の集まりなどで年に何度か経験のあることなので、頭目達の混乱は起きず、城外へも順調に移動する。

とはいっても、岡崎城外には多くの家来衆が集っているので、岡崎の城下町は人でごった返していた。


「義父殿、義母の築山殿にご挨拶する事はかないませぬか、是非お会いしたいのですが」

顎をなで、考え事をしながら退出しようとする家康に、奇妙丸が声をかけた。

「妻は重い病を患っているため、傍に近寄る事は出来ませぬ。快方に向かったら、是非会ってやって下さい。」

「そうですか、残念です」

築山殿の事になると、家康は声に力がなくなる。

「奇妙丸殿、今日は岡崎城にご滞在して、信康夫婦に助言をしてやって下さい」

「はい、そうさせて貰います」

「では、私は国衆達を門まで見送って来ます」

そういって、家康はそそくさと退席していった。


*****


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