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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十六話(岡崎城編)
173/404

173部:黄金の国

<安祥城内、本丸御殿の大広間>

奇妙丸を囲んで、三河衆の頭目達を迎えての宴会が始まった。

沢山の人数が居るので、安祥城主・信成と奇妙丸一行がまとまって座った以外は、

特に上・下の座席にとらわれず、広間に来たものから自由に分かれて座っている。特に奇妙丸の前は名だたる長老たちが押し寄せて、一気に平均年齢を嵩上げしている。


明日は全員で、岡崎城の会議に出席する予定もあり、今日は軽く前哨戦といったところだろう。

三河の頭目達は、これだけの人数が居るので、自分がここでいきなり織田方の人質に捕られることはないだろうと安心している。

岡崎徳川の動きも気になるが、安祥城と岡崎城の勢力は拮抗しているし、今日の家康の態度をみれば、軽々しく安祥城を夜討ちすることもないだろう。

祭りの後でもあり、珍しくお互いに気を許し合っていた。


「丸太を揃えて、一体何をなされるので」

長老・鳥居忠吉が、奇妙丸に問いかける。

「ふふふ、秘密で御座る」

内緒ですと、おどけて言う奇妙丸。

「そのような事を言わず、我らに打ち明けて下され」

鳥居がせっつく。

「熱田に社殿を建立されるのでは?」

予想してみせる大河内金兵衛。

「五重の塔を建てられるのならば、我らは寄進者として名を遺せて頂けるのでしょうか?」

熱田に名簿を残すことができるのだろうか?と信心深い内藤入道が心配する。

このままでは話しが神社への寄進に進んでいきそうなので観念して応える奇妙丸。


「皆には極秘にして頂きたいのだが」

奇妙丸が立ち上がって、広間の面々を見渡す。

「実は私の婚約者、武田松姫の為に、甲府に新しい館を建てたいのだ。出来れば皆、私に協力して欲しい!」

「「おおっ」」一斉に驚きの声をあげる三河衆。

頭目達が、武田と聞いて目の色が変わる。やはり今一番に関心があるのは武田の動きだ。


「そのような目的が!」

水野忠重が、掌をポン!と叩き、丸太集めに合点がいったという仕草をする。

「家康殿も言っていたが、現在、武田軍は、甲州相模の国境から信玄の娘婿・小山田信茂の率いる小山田党が、上野の国境から信玄本人が北条領に侵攻しているようです」

東三河に領地があり、今回もっとも遠方から来た牧野家の陣代・稲垣長茂が、武田信玄の率いる甲州軍の動きを諸将に教える。

「さすが牧野の御家中は情報通だ」

牧野家の情報網を褒め称える鵜殿長信。


牧野家の出自は、もともと三河守護・一色家の代官だった。

新守護となった阿波細川と一色家の争いの中で、細川家の守護代・武田東条国氏を倒し、一色家家老の波多野全慶を下剋上して、のしあがった一族だ。

鵜殿氏は今川統治下では三河衆のまとめ役だったので、長信も三河の東西諸将に格別に心を砕いているのが解る。


老将・本多豊後広孝が発言する。

「武田家との融和を計れたならば、東海道と中山道に長く平和が訪れる事は間違いない」

うんうん、と頷く頭目達。

「我ら、奇妙丸殿のために一肌脱ぎまする。ご安心して熱田で材木をお待ち下され」

広孝が、改めて材木の件は取り纏めると進言する。

「材木だけでなく、秘蔵の調度品等も私は出し惜しみませぬぞ」

富豪で有名な鳥居家の惣領・忠吉が協力を申し出る。

「誠に有難い。では、熱田の大工頭領・岡部のところで朗報をまっているとしよう」

奇妙丸は、三河衆の協力を得られた事にほっとする。


「甲州入りの暁には、是非とも新居館の組み立て工事に参加しとうございます」

鵜殿長信が、甲斐に同行させてほしいと言いだした。

「信玄入道殿にも会う事ができるかもしれん。甲斐韮崎かいにらさき城下の見物する口実ができた」

海の豪族である水野忠重が、珍しく山国の甲斐に興味を示し自分も参加する気でいる。

「韮崎か、それは我々も是非見ておきたいな」

成瀬や菅沼、鈴木や中根といった中堅豪族の若い衆たちも、黄金ノ国・甲斐に憧れがある様子だ。

「そうだ、御館ならば庭園なども造らねばなるまい。丁度、私の領地に亀の甲羅のような模様の自然石があるのだ、あれを運びたいな」

「工事の間、半年は甲府に滞在することになるだろうか?」

気の早い連中は、もう甲府で新館の工事をするところまで話が進んでしまっている。

しかし、一致団結して同じ目標に走る事が出来るので、三河衆の表情は今までになく明るい。


昼間は、それぞれの一族が、過去のわだかまりや、農地の水利や領地の境界での対立から、相撲の代表が一族を背負っての代理戦争の様を呈していたが、今日の勝敗も水に流して、織田家嫡男・奇妙丸を囲んで、諸将がひとつにまとまろうとしている。


安祥の宴の途中から、広間で奇妙丸一行に合流した弥富服部弥右衛門尉政友は、三河衆があまりに盛り上がっていることに目を丸くして、於八や於勝に何故こうなったか事情を聴いている。

奇妙丸の隣に座る楽呂左衛門には、織田市郎信成に家老の小瀬清長が、城主の特権で、「何処から来たのか」「何年居るのか」と基本的な事情を聴取していた。


今日、一行に加わった山田左衛門佐は、明日の岡崎会議の準備の為に、食事を終えた後に早々と部屋に引き上げていた。「酒が振る舞われては仕事が出来ぬ様になる」と後の事を心配して、奇妙丸の許可を得て退出していた。信長の選んだ弓頭だけあって、仕事に生真面目な性のようだ。


明日は、鳥居家が矢作川から菅生川(乙川)を遡る「渡しの船団」をだしてくれるという。今日の行事での疲労も溜まっていたが、皆、安心して軽く酒を飲み、ほろ酔い気分になったところで割り当てられた部屋へと戻って行った。


*****


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