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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十六話(岡崎城編)
172/404

172部:参拝

五徳姫が、信康の傍に来て自分の手拭いで信康の体に付いた血をふき取る。

「無茶されるのですから」

仕方ない人ですね、という表情の五徳姫。

義兄上あにうえ殿は強いな」と五徳に微笑む。

姫の優しさにより、信康の中で試合前に感じていた「もやっ」としていたものは晴れた様子だ。


「では、明日の準備もありますので、我々は引き上げます」

家康が奇妙丸に退去することを告げる。

「よろしくお頼みいたす、義父殿」

再び両者がにっこり微笑み合った。


「いくぞ、信康」と素っ気ない家康。

「はい。父上」

力ない返事をする。

信康は完全に朝の勢いを失ってしまっている。

信康には、父・家康の冷たい眼差しが相当応えていた。


「それでは兄上、また明日」

五徳姫が手を振る。

「おう」

奇妙丸も五徳姫に手を振る。


父・家康のあとに従い信康も岡崎城へと引き上げる。

岡崎の八人衆も、その後ろ姿に元気がない。

浜松勢に囲まれて委縮する様は、まるで捕虜が連行されているような光景だった。


こうして、安祥神社奉納大相撲大会は意外な形で幕を閉じたのだ。


日も暮れて、参拝者が松明を掲げ始める。

境内の各所で、神社で用意した大松明が灯され、更に、焚火が燃やされて、観衆の足元を照らし、境内の中は昼の様な明るさだ。

武家衆には明日の都合もあるが、民衆にとってはハレの日はまだ続いている。


「これから力餅とお神酒を配ります」氏子が集まった民衆に呼びかける

社殿の要所に立つ安祥八幡神社の神職達の案内で、民衆が本殿に参拝に向かい始めた。


安祥城代・織田市郎信成が、奇妙丸のもとに来る。

「奇妙丸殿、朝からの立ち合い。お疲れでしたな」

「うむ。我々も参拝して、安祥城に戻ろう」

鵜殿長信が、奇妙丸に声をかける。

「私も、安祥にお邪魔しても良いか?奇妙丸殿と話をしたいのだ」

「それでは、私も」

と大河内秀綱も随伴することを申し出る。

「私達も」

「私もだっ!」

次々と、居並ぶ武家の頭領たちが、奇妙丸との同伴を求めた。

三河衆達は、奇妙丸と親交を深めるこのような機会はなかなか無いので、そのまま城下の宿には帰りがたい様子だ。

「清長、どうだろうか?」

市郎信成も三河諸豪の声に応えたいようだ。

「では、ご当主方は城内になんとか休息場を設けましょう。それ以外の方々は、城下の方に戻っていただいてもよろしいかな?」

「異議なし!」

内藤入道が歳を忘れたかのように威勢よく答えたので、皆おかしくて笑顔で応じる。

こうして安祥の城で、今宵も軽く宴が開催されることとなった。


奇妙丸一行を中心に、

安祥八幡神社の拝殿に諸将が並ぶ。本多豊後入道が、隣の大給松平親乗に小声で話しかける。

「こうして、織田家の若君と武運長久を祈ることになるとは思わなかったな、時代が変わったようだな大給のよ」

「これから、日ノ本がどうなるのか、想像がつかぬ」と親乗が、奇妙丸の後ろに控えている、異国人武将の横顔をみる。

楽呂左衛門は、視線を感じて、目が合った親乗に、右手の親指を立てて片目をつぶって見せる。

「これ、御神前だぞ」と、山田左衛門佐が楽呂左衛門の親指を抑える。

山田につっこまれる呂左衛門を見て、クスッと笑う桜達。


尾張を代表して奇妙丸、三河を代表して鵜殿長信が、神前に進み出て、玉串と供物、宝刀を捧げた。

楽呂左衛門は、拝み方が判らないので、周りを見回してから心の神に祈る。


参拝が終了して、於勝と於八は、桜と一緒に虎松のところへ戻り、高橋政信の所に寄ることにした。

三宅与平次は、単身そのままついてくるというので、土肥助次郎がいろいろと教示することになった。

「与平次、大鹿毛を頼むぞ」

と奇妙丸が、大鹿毛の世話を託す。

「はいっ、幸せで御座います!今日は大鹿毛の傍で眠りたいです」

与平次は大喜びだ。

「おいおい、蹴られるぞ。挨拶だけにしておけ」と、与平治の興奮する様子を心配して注意する助次郎。

「はっはっはっは」と周囲の侍達は与平次の馬に対する純朴さを微笑ましく思う。


*****


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