163部:大相撲
<三河国、安祥城城下の安祥八幡宮>
陽も傾き始め、影が長く伸びつつある。
朝から続く相撲大会に観衆の興奮は冷めることなく、次の試合を今や遅しと待ち望んでいる。
大相撲の熾烈な予選を勝ち残ったのは、信康組では岡崎八人衆のうちの若手の代表格である大賀弥四郎、天野甚兵衛貞久、平岩七之助親吉(1542年生まれ)が本戦へと駒を進めたが、期待されていた信康の乳兄弟・大草松平康安、守役の長沢松平康忠は、吉良家の旧臣・神と大河内に敗れ、早々と姿を消していた。
松平一族では桜井や大給の有力家の息子に、戦場では一族の軍団を率いる大給、東条の陣代達が満を持して出場した。戦場で勇名を轟かす大給松平の陣代・五左衛門近正(1547年生まれ)や東条松井康重(1554年生まれ)だが、陣代たちは遠江の遠征から帰って来たばかりで身体のキレがイマイチだった様子で惜しくも初戦で敗退してしまった。
しかし、次世代の有望格である東条松平の陣代・松井康重(1554年生まれ)や、深溝松平又太郎家忠(1555年生まれ)といった若手武将が四人抜きまでの惜しいところまで進み、その存在感を示した。
吉良の旧臣からは吉良氏の一族である神藤左衛門忠政(1556年生まれ)、重臣筆頭の家柄である大河内が順当に勝ち進んでいる。
その他の夏目次郎左衛門吉忠、渡辺半蔵政綱ら昔から武名名高い家柄の武将たちは敗退してしまっていた。
三河の豪族たちでは鳥居、本多、大窪、酒井、石川の代表者がお互い潰し合いの様相を呈し、対戦は異様な盛り上がりを見せたが、それぞれが五人抜きの最終段階で敗れ、本戦出場者となった鳥居家の四男・四郎左衛門忠広に花を持って行かれた感じだ。
遠くから駆け付けた牧野新次郎康成や、父・成定の急死により若き惣領となった新党主の新次郎を助ける牧野家陣代・稲垣藤助長茂は、奇妙丸の傍衆を代表する森於勝と対戦し敗退させられている。
知多半島の水野家からは与力の高木一族が、於勝に続いて出た梶原於八により決勝進出を阻まれている。
しかしその後、知多半島勢も踏ん張り、大浜の長田喜八郎、梶川家の陣代・弥三郎高盛が本戦出場を決めた。
矢作川上流奥三河の高橋衆では、三宅一族の三宅惣右衛門(1544年生まれ)、中条一族からは将監秀政。落合の戸田直頼が出場し、桜井松平の長男である与一郎忠正(1543年生まれ)と、中条将監秀政が本戦出場を決めている。
本戦では、神藤左衛門忠政(1556年生まれ)対中条将監秀政。
大河内金兵衛秀綱対大賀、徳川二郎三郎信康対長田喜八郎尚勝。
桜井松平対戸田孫六郎忠重。鳥居忠広対梶川弥三郎高盛の取り組みが組まれた。
更に後半は、奇妙丸傍衆の森於勝対、岡崎信康の直臣である天野甚兵衛貞久という、両雄の側近対決が繰り広げられる。
続いて、梶原於八対、信康の後見である平岩七之助親吉による奇妙丸と信康の代理対決の組み合わせとなり、於八には尾張に縁のあるもの、七之助には三河に由緒のあるものが、お互いの郷土愛をかけて熱い応援が繰り広げられた。
奇妙丸と五徳姫、信康もお互いの立場を忘れる程に試合に熱中し応援していたが、皆が集中していたので誰がどちらを応援しているかまでは気にしている者はいなかった。
ただひとり信康を除いては・・・。
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