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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十五話(安祥八幡編)
162/404

162部:冬姫

<尾張国、清州城>

その頃、清州城の二の丸の中庭では、盆栽が生駒三吉の手で日なたに出されて陽光を浴びていた。

御殿の縁側から、冬姫が奇妙丸の置いて行った盆栽を眺めている。

「松は強いので特に手を加えなくて良いとのことでしたが」

生駒三吉が振り返り、何か言いたげな冬姫に声をかけた。

「兄上様は五徳姫に会っている頃でしょうね」

生駒の下に連絡が届いていないか確認する冬姫。

「そうですね。もう岡崎辺りに到着する頃ですが」

歯切れの悪い返事に何も連絡がないのだなと気付く。便りのないのは元気な証拠ともいう。

冬姫がぽつりと呟く。

「松姫はきっと、この松に自分を重ねて贈ったのでしょうね」

「良い松だと思います」

「私たちが熱田に残してきた楠木は、元気に育ってくれるでしょうか」

「熱田の方々が見守ってくれているので、きっと大丈夫だと思います」

「そうですね」

熱田の人達の笑顔を思い出す冬姫。

冬姫が珍しく生駒に質問する。

「植物は人の言葉が解るのでしょうか?」

「そうですね。熱田の御神木ともなれば、人ばかりでなく神意もよみとるのでは」

「その盆栽は、松姫が兄上に(私は元気です)と伝えている気がします」

「そういう力もあるかもしれませんね」

「気持ちで繋がっているのは素晴らしい事ですね。気にかけてもらえるのは嬉しい事です」


(はぁ)と溜息をつく冬姫。

「どうなさいましたか?」

冬姫を気遣う於仙。

「私は欲張りなのでしょうね」

冬姫が答える。

「・・・そうでしょうか? 姫様には煩悩がないのかと私は思っていますよ。於仙なんて美味しいものが食べたいっていう食欲が歩いているようなものですから」

例え話に挙げられた於仙が頬っぺたを膨らませて、於久に抗議する。

「於久だって、いつも綺麗な着物が着たいって言うじゃない!」

於久も自分の趣向を晒されて顔を赤く染める。

「そうなのですか?」三吉が驚いた表情で見る。


「「あら?」」

生駒の前で墓穴を掘ったと、はにかむ二人。

「違いますよ、二人は心底、武具好きですから、立派な女武士ですよ」

といって冬姫が笑う。

「違いますね、立派な女傾奇者じゃないでしょうか?」

於妙が冬姫に便乗して、池田姉妹をいじる。

「もう、於妙ちゃんたら!」

於仙が抗議し、於久が於妙に反撃する。

「於妙ちゃんも立派な女武士よ! このあいだは天井から吊るした壱文銭を、槍で刺しつら抜いたじゃない!」

「ええっ!?」

驚く生駒三吉。元気になったとはいえ、冬姫女中隊の訓練に参加している事までは想像していなかった。


「眼を患った事で、集中力が増したようです」ニコリと笑う於妙。

「川尻様から、流石武家の娘、筋が良いと絶賛されているわ」

於久が更に於妙を持ち上げる。

「薙刀女中隊の有望株です」

冬姫も改めて太鼓判を押した。


於妙が趣味を見つけたのは良い事だなと思う三吉。

「是非、御手合わせを」於妙がニッコリ微笑む。

「ははっ」於妙にまっすぐ見据えられて、頭をかく三吉だった。


*****


部屋に戻る冬姫に、先程の件を気にして問いかける於妙。

異性がいない処なら、自分たちに心を開きやすいのではないかと考えた。

「冬姫様は何が御望みなのですか?」

「そうですね。想う人から愛されたいですが、大名の娘にそれは許されないのでしょうね」

政略婚で、伊勢北畠攻めの軍功次第で蒲生鶴千代との婚約が決まりそうな状況にあり、冬姫の想いは棚上げの状況だ。

しかし、信長が愛娘の将来を想い、南近江の名門蒲生家の跡取りを婿に選んでくれたことは分っている。奇妙丸周辺の男子は皆、ひとかどの人物が多い。そのような男児が集められているのだろうが、その中でも鶴千代の存在は目立っていた。


「冬姫様を愛さない殿方はおられませぬ!」

「冬姫様なら大丈夫です!私が断言します」

於仙と於久は励ましているつもりなのであろう。

「鶴千代様は男らしい方のようですね」

於妙も蒲生鶴千代の噂はよく耳にする。風の様な快男児と聞く。

「嫌な方ではありませんでした」と冬姫。


姉妹の五徳姫も、徳川家康の嫡男である岡崎信康に嫁入りして現在は仲睦まじく暮らしていると聞くので、縁組してしまえば気持ちも自然と相思相愛になるものなのだろうか。


「桜は元気かしら・・」

遠くの空を見上げる冬姫だった。

相撲から少し離れて(笑)。


設定集に鵜殿氏の頁を追加しました。ご照覧下さい。

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