16部:小野城潜入
次の日の夕刻、小野城にお千代に変装をした桜が現れた。
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「娘、ようきた」
「これで、商いは許されるのですね」
「うむ。お主のことは家の為じゃ、あきらめるんじゃな」
「はい」
「聞き分けがよいの!」奥から覆面の男が現れた。
「横幕殿、人数は集まりましたかな?」
「はい、弾正殿」
「商人の娘たちばかりですから、たいした騒ぎにはならんでしょう」
「では、これが願証寺証意様の貴方宛てへの起請文です」
桐製の小箱があけられ経文のように折りたたまれた書状が広げられる。
「横幕殿の忠義次第では本願寺教団の幹部にお迎えいたしますぞ」
「ありがたいお言葉」
「貴殿は、織田家の陪臣で終わるような器の武将ではありませんからな」
「弾正殿にそこまで買ってもらっているとは」
「これからも期待しておりますぞ」
「ははっ」
このやりとりを桜は聞いていた。
「他の娘と同じ地下牢に入れておけ」
「はっ」配下の侍たちが千代を連れて行く。
「私はこれからどうなるのでしょう?」
「伊勢長嶋にゆくのじゃ」
「そこで何をするのでしょうか」
「本願寺の8世蓮如様は生涯で30人もの子供を授かっておられる」
「うまくすればお主も大坂石山本願寺に呼ばれるぞ」
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暗く長い廊下を前後侍に囲まれ、桜は連れて行かれる。
「あの、牢に行く前に厠に行かせてください。後生ですから」
「う~む、仕方ないな」
連行されながら厠に向かう廊下で、城内に潜入した兄弟たちが桜の様子をうかがっている。
桜は早くも証拠をつかんだことを、隠密でしか判らない合図で伝えた。
「桜が証拠を掴んだようだな。二郎、若に連絡を頼む」
「承知」
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小野城傍の廃寺で戦闘の準備をする四人。
これから、小野城主、横幕を成敗する決意である。
静かな気持ちで武具の準備をする男平八(於八)。
<手甲>を片手にはめながら、岐阜城を出る前の夜の事を思い出す。
「冬姫様、どうされました」
「於八様、兄上の御供をされると聞きましたので」
「はい、奇妙丸様の手足となってお助けいたします」
「これを持って行って下さい」
「これは織田家の家紋入りの手甲、このような、どうされたのです」
「於八様もどうかお怪我なさらぬようにと」
「かたじけない」
「兄上様の事、どうか宜しくお願いいたします」
「私が最後まで奇妙様のそばを離れませぬ、どうかご安心を」
(奇妙丸様は私が守ってみせますぞ)
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討ち入りの前に武装を確認する俵三郎(鶴千代)。
<脛当て>を固定しながら、岐阜城を出る前の夜の事を思い出す。
「冬姫、御呼び頂けるとは光栄です」
「鶴千代様、どうぞこれをお持ち下さい」
「これは、織田家の家紋入りの脛当て」
「鶴千代様の大事なおみ足を守ってくれると良いのですが」
「ありがたき幸せ、姫の御心遣い感謝いたしますぞ」
「鶴千代様、兄上様のことを宜しくお願いいたします」
「この身に代えてでもお守りいたしますとも」
(冬姫との約束、生涯守りますとも)
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武装を装着する森勝蔵(於勝)。
いつもより肩幅が広いので強くなった気がする。
<鎖肩当て>を巻きながら岐阜城を出る前の夜の事を思い出す。
「冬姫様、御呼び頂き於勝感激であります」
「於勝様にお渡ししたい物が」
「姫が望むなら、俺はいつでも」
「これを、どうぞお持ちになって行って下さい」
「こっ、これは、織田家の家紋入りの肩当て」
「於勝様の身を守ることができればと」
「私の為にわざわざこのような物を準備して下さるとは、於勝感激に御座いまする」
「どうか兄上様をよろしくお願いいたします」
「私にお任せください」
「頼りにしています。それでは、明日よろしくお願いします」
「それでは」(冬姫、奇妙丸様を守り切って、必ず帰ってきますぞ)
それぞれ、冬姫から拝領した武具に手を触れ、出発前の夜を回顧する三人。
(冬姫は、私と共にある)
ふっ、ふっ、ふっ、ふ。
討ち入り準備をしながら、にんまりとしている三人に不気味なものを感じる勘九郎(奇妙丸)だった。
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