151部:諍い
「豊後、お主ほどの男でも、息子が可愛いか?」
誓願寺入道が、豊後守広孝を嘲る。
話を黙って聞いていた広孝の息子・彦次郎康重が立ち上がる。
「父を侮辱することは、私がゆるさぬぞ!」
鬼の形相で誓願寺入道を睨みつける。
「黙れ!小僧っ子が!」
鳥居入道が彦次郎を一喝する。
「なにを!」
「初陣したばかりの小僧が大きな口を叩くなと言っているのだ!」
更に焚き付ける大給親乗。
諸老達に叱責され、彦次郎が肩を怒らして震えている。
「抜くか?、受けて立つぞ!」
挑発を続ける鳥居入道。
「奇妙丸様の御前だぞ、やめい!」
息子を叱りつける豊後守。先程、息子が可愛いかと言われたことも影響したのか厳しい態度だ。
「ぐぬぬぬ」
拳を握りしめ座につく彦次郎。
「戦話を聞きたいといった事で、妙な空気になったな」
三河衆のなりゆきを見守っていた奇妙丸が、申し訳なさそうに割って入った。
「これは、ご無礼をつかまつった」
すぐさま謝罪する誓願寺入道。
「ここは、どうでしょう。若者も多いことですし、家を代表して、対決してもらうということで明後日の安祥神宮での奉納相撲・八月場所に出てもらっては?」
小瀬清長が、この場の雰囲気を変える提案をする。
「「おおっ!」」
“相撲”と聞いて、血の湧く諸豪達。
「ちょうど、その時期か?!」
「これはよい余興だ!」
「奇妙丸様の御前試合じゃな!」
場の面々の表情が俄に明るくなってゆく。
相撲をやろうということで一致団結する三河衆。力比べは子供のころから一番の遊びだったのだ。
「決まった様だな」
場の雰囲気が、一気に良くなったので安心した奇妙丸。
(清長は知恵が回る男のようだ。流石、祖父・信秀の頃から代々引き立てられた家系なだけあるな)
「では、明後日!安祥八幡宮にて決戦だな」
「よし、受けて立つ!」
こうして、奇妙丸歓迎の宴は、明後日も場所を変えて開催される。




