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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十三話(安祥編)
150/404

150部:不満

奇妙丸を囲んで宴が盛り上がりをみせる。

安祥城の近くで行われた今川家との合戦話で今はもちきりだ。

「信成殿、父君・信光殿の抜群の槍捌き、小豆坂合戦あづきざかは凄かったですぞ」

城主・織田信成の父を持ち上げる大給親乗。

「清長殿の父・織田造酒丞おだみきのじょう信房殿の奮戦も鳥肌が立ち申した」

戦場いくさばを共にした夏目が遠い目をして言う。

「そうですか、父上達は皆様の記憶に残るほど武辺者ぶへんものでしたか。きっと天国で喜んでいますよ」

「生き残られた皆様の御武運こそが素晴らしい。あやかりたいものです」信成に清長が上手く老人たちを褒め上げる。


誓願寺内藤入道清長がにこやかに答える。機嫌は上々な様子だ。

「いやあ、なんの、なんの。ただただ、歳を取るばかりじゃて」

奇妙丸が改めて広間に居る人数を見渡す。

「こうして眺めてみると、壮観な面々ですね」


「奇妙丸様に会うために皆やってきたのですよ」

「織田家の徳の高さですな」

口々に答える武将達。

「ここはぜひ、皆様の戦話いくさばなしも聞きたいものです」

多くの戦場を生き残って来た武将達の話を、本気で聴きたいと思う奇妙丸。戦話は戦場を経験していない若者には生き残るための大事な教訓になる。

「では、武辺第一の者からだな」と老人達。

「ふむ・・夏目殿からかな」

「この場で一番の武辺物は本多豊後殿じゃろう」

「ほんに本多家には西三河をかき回されて、迷惑しているのだ。最近は、酒井正親も気に食わぬ」

鳥居入道が迷惑顔そして本多を見る。

「家康の今川家からの独立は、本多家の暴走ありきだからな」

大給松平親乗も、家康と本多には腹に据えかねたものがある様子だ。

「あれは弥三郎正信の暴走で御座る」

夏目が続ける。

「正信は吉良家復興のためと息巻いていたな。正信と広孝殿があの時、織田、今川の間を駆け回って、家康を岡崎に入城させた事が大きかった」

夏目自身も吉良家の旧臣だったが、三河一揆では最後まで吉良家を支持できず、織田・徳川の軍門に降った。

「その正信殿は伊勢の願証寺に行ったままか?」

鳥居が本多に尋ねる。

「奴は今、大和国の松永久秀の下で働いているらしい。私は、吉良家よりも乳兄弟・広忠の家を再び興したかったのだ。本当に正信は今も何を考えているのか判らぬ」

大河内秀綱が口を挟んだ。

「豊後殿の圧で、正信殿は出奔したのではないですか?」

ギロリと大河内を見返す広孝。

「奴は口先ばかりの小賢しい男だ!」と、本多広孝が怒り気味に膝をぴしゃりと自分で叩く。

広孝は、吉良家の為に家康・広孝までも排除しようとした一族の正信をあからさまに嫌っている様子だった。


・・・・本多弥三郎正信は吉良家に出仕していたが、吉良家が今川家の支配に屈するに及び、広孝とともに今川の他国先方衆として、織田家との前線に立たされる。丸根砦攻めに負傷し三河に引き上げるが、義元の戦死を知り、運が開けたとばかりに、一族の広孝とともに三河の独立を画した三河屈指の策士である。


「いやしかし、本多家の隆盛は目を見張りますな。家康は、最近は忠勝を御自身の旗元頭に取り立てられたとのこと。本多家が信任されている証拠ですぞ」と大浜城主の長田尚勝。

せっかく尚勝が広孝の機嫌を直すような事を持ち出したが、三河の諸将は面白くない。


「分家の忠勝殿を、家康は寵愛しておるようですな」

と大給松平親乗が含みを持たせて聞く。

「家康は豊後殿がこれ以上強力になることを恐れたのだろうよ」

誓願寺内藤入道が、広孝を挑発するように言葉をつづけた。

静まり返る広間。


本多広孝が、低い声で呟き始めた。

「岡崎に尽力し血を流してきた本多家への恩を家康は忘れたようだ。我が息子ではなく、忠勝を引き立て、それに、儂が何故に今更、酒井・石川の旗下で動かねばならんのだ」

この場に出席している酒井、石川を睨む広孝。

思わぬ敵視に申し訳なさげな二人。

広孝も最近の家康には不満がもたげてきている様子だ。


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