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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十三話(安祥編)
148/404

148部:噂

*****


<安祥城の本丸、奥屋館>

「御免なさい。先客がいるとは知らず、入ってきてしまいました」

桜が人の気配を感じ振り返ると、奇蝶御前と同じくらいの年齢の美しい女性が立っていた。

自分が先にお風呂を頂いた事を、知らない奥の方がいたのだと思い。誤解されぬ様に説明する。

「信成様に御風呂をお借りしました。桜と申します」

「そうですか、私は信成の母・於北おきたです。このような姿で御免なさいね」

「こ、こちらこそ」

急に恥ずかしくなった桜。

北御前は、若い女子が一人でこのような場所に居るのは、理由があるのだろうとすぐに察する。

桜が身体を流し、湯水が流れた風呂場の床が、赤く血で染まっているのに気付く。

「お嬢ちゃんは、どこか怪我しているの?」

「いえ、仲間が襲撃され、その手当をして血がついてしまいました。汚してすいません」

「そう、それは仲間の方が心配ね・・。お風呂場は汚れを流す処ですから、謝らなくていいですよ」

「はい」

北御前は軽く体を流し、先に湯船につかる。


「お仲間を怪我させたのは一体何処の者なのでしょうか?」

「味方同士の誤解でした。運が悪かったのです」

「味方同士ですか? そうですか・・。

悪いことを尋ねましたね、お嬢ちゃんも、体が冷えないように湯に入りなさい」

「はい」

遠慮がちに湯に浸かる桜。

「かつて、私は最愛の夫・織田信光を暗殺で失いました。

犯人は、夫の傍衆・坂井孫八郎とされています」

突然の北御前の話題に驚く桜。


「御家中で殺人が・・、理由はいったい?」

「私と孫八郎が不義密通していたから発覚を恐れた孫八郎が夫を刺した。と、世間では言っておるそうです」

「え!?」

「私は孫八郎と、良い仲などではありませぬ」

「それでは、なぜそのような噂が?」

「私だけではなく、我が父・桜井松平信定には良い噂は御座いません。

兄の桜井監物家次は、弘治・永禄元年(1556・1558)に、信長軍に品野城を襲われています。

そして、永禄6年(1663)には三河一揆に加担して岡崎の家康方に敗北し、領地を大きく失くしてしまいました。

桜井松平家の者は、長く岡崎と争って来たため、何をしても岡崎の連中に悪く言われ、悪い噂を流されるのです」

「ひどい話ですね」

「兄の子、私の甥の桜井与一郎忠正や忠吉は、桜井松平に着せられた汚名を雪ぐべく、前線で槍働きをしておるのですが・・

こうして、女の私は、一族や私に架せられた噂に対して弁解の余地もありませぬ」

(北御前様は、誰かに自分の話を聞いて欲しかったのかもしれない。嫁ぎ先である織田家の中でも肩身の狭い思いをなされて来たのだ)

「それは、口惜しいですね。でも、いつか信成様が悪い噂を払って下さいますよ」

「いつか、ただの噂だったと。皆が私の潔白を信じてくれる。そのような日がくれば良いのですが」

「奇妙丸様と、信成様兄弟、桜井松平の皆様が一致団結して、織田家を盛んにすれば、そのような噂は自然に払拭できるのではないでしょうか」

「そうですね・・、ありがとう」

「こちらこそ」

こうして、初対面ながら深い話をしてしまったので、お互いに親近感をもってお風呂の時間を過ごすことになった。


*****


安祥城は東西が深田に囲まれた要害で、南北二つの入口がある。北には武家屋敷や町屋の城下町が広がり最も人の出入りが多く。南には八幡宮社が鎮座し、森が広がっている。


あくる日、安祥城には奇妙丸来訪を知った多くの客人が訪れていた。


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