表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十ニ話(池鯉鮒編)
144/404

144部:鴉

空気が重くなり、家の中を見回す奇妙丸。そこで土間の一画に、このぼろ屋には似合わない程の立派な盆栽を見つけた。

「盆栽をされているのか?」

「父・信政の遺品です。領地を失い、先祖から相続したものは是だけになってしまいました」

「それにしても見事だ」

「昔、父に教えて貰った事と、後は見よう見まねですが、何とか育てております」

「見事だ、私に盆栽の育て方を指南しては頂けぬだろうか?」

「お安い御用です」


受け答えをしながら家の中を見回していて、政信は思い出したことがあった。

「今の、伴ノ衆の頭はだれですか?」

桜に伴氏首領の消息を聞く政信。

「私の兄、伴ノ一郎左衛門です」

「呼んで頂けますか?」

不思議に思いながらも、桜が玄関に立ち外に向かって指笛を吹く。

しばらくして、虚無僧姿の伴ノ一郎がふらりと玄関に現れた。

「来たな一郎左、高橋政信殿が伴の首領に用事があるそうだ」

奇妙丸が、家の中に入ってくるように手招く。

「貴方が一郎左衛門殿、それにしても、伴ノ方々が残って居られて良かった。この政信、伴ノ五郎(富永忠元)には恩義があるのです。その恩を、伴一門の方にある物を託すことで返したい」

そういって政信は部屋の奥へ行き、神棚の傍の梁柱に架けてあった一本の槍を手に取る。

「それは?」

両端に三又の槍先が付き、剣木けんもくノ 字紋じもんをそのまま槍の形に変えた姿だ。

「木ノ刃丸このはまるだ。またの名を鴉丸からすまるともいう。この槍は、真ん中で二本に分ける事もできる」

納得する一郎左。

「なるほど」

確かに、中央部分に境目らしき筋がある。


「伴ノ五郎が、最後の出陣前に私に託したものだ。これだけは伴家の者に渡さねばと考えていたのだ」

刀身の樋の掘り込みには高御産巣日たかみむすび神(古代の神、高木神)と刻まれている。

(高御産巣日神といえば熊野。三又は、熊野の三足鴉に通じるものか・・・)


「五郎が富永家の家宝と言っていた。伴ノ二郎助兼とものじろうすけかね殿が、奥州征伐の褒賞として、源ノ八幡太郎みなもとのはちまんたろう義家公から頂いたものだそうだ」

「おおっ」


「伴ノ五郎の形見、受け取ってくれ」槍を差し出す政信。

両手で、しっかりと握る伴ノ一郎左衛門。

槍が辿った500年の歴史が、体に流れ込む様な気がする。


奇妙丸は、先祖が織田剣神社の神職だっただけに伝説に詳しい。

大和朝廷を立てた神武天皇の畿内入りには、高木神の神託を受けた大伴ノ 高倉下が駆けつけ、

天武天皇となる大海人皇子には大伴ノ 馬来田まくた吹負ふけい兄弟が、

奥州征伐の源ノ頼義には大伴員季おおともかずすえ

武家の棟梁となる八幡太郎義家には伴ノ助兼とものすけかど

鎌倉幕府を立てた源ノ頼朝には富永(伴ノ)資時すけとき

室町幕府を立てた足利尊氏には富永(伴ノ)直郷なおさとが従軍した。

彼らは、主要な合戦の先陣を勤めたうえに、何度も主の危機を救っている。

天下が乱れた時は、伴のからすが、相応しき者の前に現れて、「赤き心」で頂きへと導いてくれるのかもしれないな・・。


奇妙丸は、この出会いは吉兆だと考えた。

(源氏の奥州征伐か・・・)

それぞれ感慨深げに槍の先端を見上げる二人。いや、ここにいる全員が輝く槍の穂先を見ていた。

「一郎左、私の奥州征討にも、その槍を持ってしっかりとついて来てくれ!」

「承知しました、我が君」

その後、奇妙丸と一郎左のやり取りを、安心した表情で見る桜と政信だった。


*****


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ