表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十一話(岐阜編その2)
138/404

138部:清州へ

http://17453.mitemin.net/i205999/ 1569年7月から8月頃、東海道の状況

挿絵(By みてみん)


足利義昭を奉じる大名として、織田信長と武田信玄は同盟関係。

遠藤氏と遠山氏など、織田と武田の両方に属する小大名もいる。

信長は畿内に専念する為、東方での対決を避け、武田信玄が敵対して動き出さないように心を砕いている。

家康はじめ三河の諸豪族は、今川家の鎖から解放され、怪しげな動き・・。


信長の下へ参上した奇妙丸。政務の合間を見ていとまを貰いに来たのだ。

「父上。 私は清州に戻ります。楽呂左衛門は山科家の事もありますので、もう少し滞在させます」

信長が立ち上がり奇妙丸の頭を撫でる。

「そうか、その前に奇妙丸よ・・、

堀久太郎が戻れば即時、三河と遠江の二カ国に、余の馬廻りを数名派遣する」

奇妙丸の背中を片手で押しながら傍衆の控える広間につれてゆく。

「よく顔を覚えていてやってくれ」

広間に控えている自身の傍衆達を見回す信長。

「目付の者供、前に出よ」

あらかじめ信長が言い含めていた人数が、一斉に前に出て居並ぶ。

奇妙丸よりは年上の二十歳前後の若武者達だ、右端に居る者達から順に名乗り出る。

「堀部金右衛門氏俊です。私は大給松平和泉守親乗殿の大給城ではなく、息子の大給真乗殿の遠江国小山城の目付を担当します」

(もとは、幕府奉公衆の堀部殿だったか。最前線に向かうのだな)

「東端城主・長田久右衛門尚勝殿の下へ派遣されます、津島の川口久助宗勝です。今回の件で父・宗吉の赤幌を継承させて頂き、晴れて赤幌衆の一員となりました」

信長が赤幌について補足する。

「余の与えた赤幌ではないが、織田弾正家伝来の赤幌武者として奇妙丸の直属とする。この者には、余の下を出奔した加藤、山口、佐脇、長谷川達の様子も連絡するように申し付けてある」

これで、奇妙丸の下には黒幌武者の川尻吉治と、赤幌武者の川口宗勝が付属することになった。信長の用意した奇妙丸補佐の両川体勢だ。

更に一段の偉丈夫にみえる侍が進み出る。

「遠江高天神城の小笠原弾正小弼長忠のところには私が参ります。大須賀胤高と申します」

(大須賀と言えば千葉家の。三河一揆では勇猛さが敵味方から称賛されていた)

「こやつは浪人していたところを拾ったのだ」

「殿の為に必ずや武勲を上げて見せます」と意気込みを見せる胤高。

「うむ、お主が吉良一揆の浪人衆供を纏め上げてみせよ」

「はっ!」

(なるほど、吉良一揆あがりの者達は、彼らを追いだした家康の牽制にもなる。流石、父上だな)

配置の妙に感心する奇妙丸。


更に、信長が補足しはじめた。

「ここにはおらぬが、遠江の拠点・二俣城には我らの連枝(一族に連なる)中根平左衛門正照と信照が入っている。堀江城の大沢基胤の処へは、一揆から帰参した渡辺図書助高綱が居るが、渡辺成忠を軍監に派遣する。密に連絡を取り合っておいてくれ」


大沢基胤は浜松湖の北側に突出した堀江城を持ち、掛川城の支城として徳川軍の猛攻を半年以上撃退し続け、最後まで守り通した忠義の知将だ。


「徳川家康は天竜川沿いの見付要害に築城を開始しているが、完成するまでは引馬城を拠点にしている。石川家成は掛川城主、西尾城・酒井正親、荒川土呂城の石川数正と、吉田城・酒井忠次が城番だ」

(徳川家康は、石川・酒井一門を東海道沿岸街道沿いの要所に配置して、一本の線で繋いでいるのだな)地図を見てその武将配置を確認する奇妙丸。


「余が伊勢に進軍する間、東海道三国の監督は、お主に任せた」

父からの依頼に嬉しくなる奇妙丸だ。更に父に信頼されたく思い、既に気持ちがウズウズしている。

「はい、その御役目、勤めあげてみせまする!」

「うむ、あまり勇まぬように」

猛る奇妙丸を見て、暴走しまいかと心配になる信長。

信長の行動は大胆に見えて繊細だ、織田家中の者の失敗に関しては、「天下の笑いもの」とされることを異常なほど嫌い、世論を最も気にしている。

今までも、奇妙丸が「笑いもの」となる失敗をしないように影に日向に手を回していたのだった。


*****


<岐阜城、奥御殿の奇妙丸の間>

昨晩、奇妙丸は奇蝶御前にも暇乞いを済ませていた。

すぐにでも清州に戻り、自分に出来る限りの後詰の準備に取り掛かるつもりでいる。傍衆達にはいつでも出発出来るように命じ、各自の荷造りも済ませ、準備は整っている。

「皆、清州に戻るが、少しは岐阜で羽を休めたか?」

「はっ」と傍衆達。

「於勝は於台屋のお千代さんの所へ、清州土産を持って会いに行ってきたそうだの?」と、

今朝、小姓衆達の噂話を立ち聞きしたので、その話題を於勝にふる奇妙丸。

「なぜ? そのことを?」驚く於勝。

そして、もう一つの話題を、於八に振る。

「於八は、茶屋のお秋さんの所には、寄ってきたらしいな?」

「あちらの方向に用事があったので、ついでです」と平静を装う於八。

「お秋さんから、立ち寄ってくれと頼まれているところを見ているし、私に誤魔化さずともよいぞ」と裏肘で於八の手を小突く。

桜が目を細めて二人を見ている。

「最低ですね」

「いや、これはだなあ」焦る於勝。

「若様の為に乙女心を学ぶ為に」と尤もらしい理屈を述べる於八。

「本当ですか?」桜が追及する。

「冬姫に、女心が解るようになった成長した私を見てもらいたいからな!」

「そうそう、大人になるためだ!」

「開き直りましたね」

「まあ、そのへんで良いではないか桜」と止めに入った奇妙丸。

「男として、気持ちは判らぬでもない」と二人を援護する正九郎。

正九郎は今回も留守居なので、冬姫と一緒にいる妹二人への手紙を桜に頼む。


「正九郎、また留守居を宜しく頼んだぞ。楽呂左衛門の事もよく面倒を見てやってくれ」

「はい、御屋敷をしっかり守って見せます。楽呂左衛門は殿様の傍衆達とも親交を深めている様子なので、岐阜でも安心して暮らせるでしょう。山科殿が都に帰られたら、池田家の供を付けて清州へと送り届けます」

「うむ。それなら問題ないな」

「若様が無事にお勤めを終えられて、岐阜に戻って来られる事を願っております」

「ありがとう」

また留守を預ける事になったので、正九郎を抱擁する奇妙丸。

「では、出発するぞ!」

奇妙丸の傍衆達と、手荷物や食料、盆栽を乗せた小荷駄が、清州に向かって出発した。


第21話 完


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ