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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第二十一話(岐阜編その2)
137/404

137部:伝

奇妙丸一行が奥御殿に戻ると、奇妙丸には信長からの呼び出しが、

桜には、奇蝶御前から濃御殿に来るように言伝があった。

「なんだろう?」

「それでは若様、お召しなので行って参ります」

「うん、母上様によろしく。私達は岐阜御殿に行ってくる」

「はい」


奇蝶御前の間を訪問した桜。茶道具問題が解決し前回と違い館の雰囲気が明るい。

「桜、よく来てくれました」

「奇蝶様」

「桜が達者にしているか気になっていました。風呂の準備をしておきました。一緒にお風呂に入りましょう」

「はい、有難うございます」

奇蝶御前が桜を癒すためにあらかじめ準備していたので湯加減は丁度いい。

「どうしました?」

「御綺麗だなと思って」

「ありがとう、桜」

「桜は成長したわね」

「そうですか」

「背が伸びた気がします」

「あまり大きくなると身を隠すのが大変ですが」

「ホホホ。それは、構わぬではないですか。大きくなれば高いところに手が届きます」

「そうですね。考えようですね」


「冬姫と奇妙丸は仲良くできていますか? 冬姫が最近、思い悩んでいるようでしたから、心配していました」

「仲の良い御兄弟だと思います」

「見守ってやってくださいね」

「はい」

「数少ない身内ですから。まして実母を早くに亡くしていますからね」

「奇蝶御前様が支えておられますから、お二人とも大丈夫です」

「二人が清州に行ってからは張り合いがなくて」

「茶筅丸様は?」

「裏山で何かしているそうなんですが。中々戻って来なくて、よくわかりませぬ。」

「奇妙丸様が戻ってこないと、話し相手に困られるのではないでしょうか」

「そうですねぇ」

奇蝶がのぼせぬ様に立ち上がり湯船の縁に腰掛ける。


「斎藤家は、父と兄が、そして兄が弟を殺害するという身内の争いがありましたから、奇妙丸と弟達、五徳姫や冬姫の嫁ぎ先とは織田家が争わぬよう、それだけは阻止したいと思っているのです。桜の所はお兄さん達は、大丈夫ですか?」

「はい、ただ幼馴染たちと、敵味方に分かれてしまったようです」

「そうですか、友と戦う事も過酷ですね」

「私は従兄弟の明智十兵衛光秀殿が、朝倉家から離れて戻って来てくれたことが嬉しいです」

「明智光秀殿?」

桜は、最近になってにわかにその名前を良く耳にするようになっていた。

「これからは、彼が織田家の力となってくれるでしょう。奇妙丸達の事も良く頼んでおきますね。桜も何か困った事があれば、私の従兄弟に相談すれば良いでしょう。後で私が紹介状を書いておきますから覚えておいて下さい」

「はい。有難うございます。お会いしたら話してみます」

「ええ、是非」

奇蝶御前が用意してくれた時間は、桜にとって

しっかりと湯に浸かることができた、のんびりと休息できた一時だった。


*****


<岐阜城 岐阜御殿>

信長を中心に傍衆達が地図を囲んでいる。

大津伝十郎が岐阜城下の動きを報告する。大津は城下の諜報活動も担っていた。

「山科言継殿の宿所から、言継の信頼を置く雑掌・沢路長俊、五十川二郎三郎、山本彦二郎の三人が続けざまに三河に派遣されました」

「そうか、すべての使者の行く先を調べてくれ」

三河の各豪族から、朝廷への献金を則す使者だろう。


彼らの動向を探ることで、三河・遠江の豪族の考えが見えてくるものと予想される。

大津伝十郎が三河に向かう配下の者を手配すべく駆けだして行った。


信長が立ち上がる。

「それから、家康に分国統治の掟状を下す」

傍らにいた祐筆・武井肥後入道夕庵たけいひごにゅうどうせきあんに文書の作成を命じる。

武井夕庵は、元々は舅・斎藤道三の祐筆も務めた男だ。

「内容はどのような?」

おきて条々、何事に於いても、信長の申す次第しだい覚悟かくご寛容に候!」

圧迫を加えることで、今までの同盟関係が崩壊するのではないかと心配する夕庵。

「宜しいのですか?」

「将軍にはそれ以上の事を要求する。それも後でしたためてもらう」

「はっ」

(殿はあらゆる対決も覚悟されているのだ、これ以上余計なことは口を挟むまい)

分別のある老祐筆、夕庵は信長の意を汲む事にも優れている。


「余の馬廻を目付として申し付け置く、互いに磨き合わせ候様に、分別ぶんべつ専一に候。用捨ようしゃにおいては、曲事くせごとたるべき也 と!」

(常に目付が監視している、これは徳川家中の家臣団をも父上が統制することになるな)

父の容赦のない言葉に奇妙丸でさえ、背筋に冷や汗が流れる。


「殿様、その使者の役目はどうぞ私に」

「よかろう」

堀久太郎秀政ほりきゅうたろうひでまさが書面を受け取り、丁重に織田家の家紋の入った漆箱に収め封をする。

家康に、信長に服従するか独立する道を選ぶか、二者択一の選択を迫る使者だ。

同盟の決裂は、

一歩間違えれば、使者は家康により命を絶たれ、首だけになって戻ってくる危険性もある。

危険な任務だが、あえて行くことで才気だけではなく武士としての胆力も人並み以上である事を、家中に示す久太郎だ。


*****


(永禄12年7~8月頃)

通説では、武田信玄 対 織田・徳川連合軍の図式が最初からあるような感じですが、果たしてそうなのでしょうか。

織田と武田は同盟関係にあり、徳川家康の暴走により織田と武田の関係が軋みはじめたとも考えられないものでしょうか。

当時、奇妙丸のせっかくの婚約を、家康によりぶち壊されたとも捉えられるのではと思いました。

家康が天竜川を越えて、駿河側に城を築城するのは、明らかに挑発行為。

山県昌景が突然攻撃を仕掛けてきた等というのも、実際の処はどうなのでしょうね。


今川滅亡後に、織田家と徳川家同盟が、緩いものから厳しいものへと転換期を迎えている様に思います。

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