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131部:ギターラ

<岐阜城城下町>

山科言継の滞在する宿所の近く、信長祐筆・武井夕庵邸で酒宴が催された。

今宵の宴の余興で、奇妙丸達が言継に芸を鑑賞してもらう予定だ。

奇妙丸達は既に武井邸に入り準備を済ませている。


信長が山科と並んで座り、運ばれてきた料理を会食する。

二人の御膳は、亭主の夕庵自身が運んできた。

料理も半分を過ぎたあたりで、余興が始まる。いよいよ奇妙丸達の出番だ。


「次はギターラ演奏でございます」

大津伝十郎が紹介する。

呂左衛門が入場し、下座中央に座りギターラを構える。

「なんじゃあれは、琵琶ではないのか?」

山科言継が、南蛮の楽器に驚いて目をパチクリする。

シャラーン♪と演奏が始まった。

宴を盛り上げるため、勢いのある曲が選曲されている。

「なんという音色じゃ、それにあの早業」

呂左衛門の両手を使った超絶技巧に驚く言継。


続けて、万見仙千代と長谷川御竹が縁側方向の襖に手をかける。

庭に向かって襖戸があけられると、能の舞台上に四人の舞手が控えていた。

紫直垂の上に白兎の毛皮を巻き付けて、紅白の紐で動きやすいように襷がけしている。



「壱番・於勝に正九郎」奇妙丸が声をかけると二人がまず動き出す。

花の飾りのついたかんざしを加えてくるくると回って登場してきた。

舞台せましと右に左に舞う、素早い動きについてゆくのが大変だ。


「弐番・於八」続けて於八が踊りだす。

天狗の下駄のような高い下駄をはいて巧みに回る於八。ときおり底板で胸に響くような音で足を踏み鳴らす。

「こんなにも激しく、」キレのある速い踊りに唖然とする言継。


「三番・奇妙丸」も。

奇妙丸は、板と板を切り合わせたような楽器を両方の手のひらに持ち、拍子に合わせて片手だけで連打しながら踊っている。

「この変化にとんだ拍子!」宮中では聞かないような拍子に驚く言継。


曲の盛り上がりと共に踊りは一段と激しくなり、

盛り上がりの最高潮での突然の踊りの停止と演奏の静謐。

四人が呂左衛門に叩きこまれた踊りを終えた。


「素晴らしいー!!見事じゃ、見事じゃ!」今まで積み重ねた物がすべて覆されたような

新鮮な驚きに、言継が年甲斐もなく興奮して手を打つ。


踊り手四人がお辞儀をして後ろに下がる。

続いて、呂左衛門のひとり演奏が始まった。

聞き入る言継。

「こんなにも物悲しく」先ほどとは打って変わって耳を澄まさないと聞き取れないような旋律。

それが徐々に速さと大きさを増してゆく。


「この音幅の広さはなんなのだ?!」

老齢の山科言継は片手に杯をもったまま、口に酒を運ぶのも忘れて呆然と見入っていた。


ジャーン♪

呂左衛門が演奏を終え楽器を横に置く。

「この言継、これほど感動した事は御座らぬ」

「それはよかった」

「この者に、〝南蛮一”の称号と楽道のお墨付きを与えましょう」

「判った。ハッハッハッ、言継殿が気に入ったそうだぞ、南蛮一だそうだ。お主はこれかららく、呂左衛門と名乗るが良い!」

「ははー」と大きく二人にお辞儀する呂左衛門。いや、これからは楽呂左衛門だ。


「楽呂左衛門! 私の娘に、その、ギターラとやらを伝授してやってくれまいか? 宜しいですか 信長様?」

「よかろう、許す」

山科言継の舞い上がりぶりに、信長は上機嫌だった。


「これ!」言継が手をパンパンと打ち鳴らすと、襖があいて奥から美しい娘が入ってきた。

「山科言継が娘、ゆうに御座います」


「結姫、よろしくーね」

両者が握手を交わす。

これでギターラの師弟契約が成立した。

結姫が演奏を覚えるまで、山科言継の宿泊先を訪ねる事になった楽呂左衛門。

言継の岐阜滞在期間、彼が通うので暇を持て余すことはないだろう。


父・信長の満足した表情をみて、父は都人に面目を施された、と思い、控ノ間に退出する奇妙丸達。

戸を閉めてから達成感と共に脱力し倒れこむ於勝に於八と正九郎。

「やったな!楽呂左衛門」

奇妙丸は楽呂左衛門と、右手どうしで拳を合わせた。


*****


岐阜城に戻ってから、奇妙丸と楽呂左衛門の二人が信長に呼び出された。

「奇妙丸よくやったな」

「楽呂左衛門の手柄であります」

「いや、良きさむらいを家臣に抱える事は、主人の手柄だ」

「ありがとうございます」

「ふむ、楽呂左衛門」

楽呂左衛門が顔を上げ、信長を見る。

(この方が奇妙丸さんの父であり、日本第一の力を持つ王。・・流石に力強い気を放っている、気圧されそうだ)


信長が楽呂左衛門を上から下までまじまじと見る。

「しばし岐阜に滞在して、山科殿をもてなしてほしい。貴人達を長く岐阜に引き留める事ができれば奇妙の所に戻るが良い。

それから、これからも奇妙丸に力を貸してやってくれ。

お主には伊勢の内にて千石の知行を与えよう。何か造りたければ職人どもも貸し与えよう。不足があれば我、義弟おとうとの丹羽五郎左衛門という者に頼むが良い」

「有難き幸せ」

楽呂左衛門が武士風の挨拶でお礼を言う。


信長が奇妙丸を近くに呼ぶ。

「ところでな、奇妙丸。そのギターラとやらを、奇蝶にも聞かせてやってくれぬか」

と小声で相談する。

父の意図する事が判り、それに応えようと思う奇妙丸。

「わかりました!」


*****


TVに出てたイエローモンキー聴きながら勢いで書いちゃいました。イエモン再結成、良かった。


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