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126部:家康

「草薙を奪われてしまったな」

落胆する於勝。

大宮司・千秋季重も湊に駆けつけ、遠く離れてゆく関船を見つめる。

船は既に伊勢湾へと漕ぎ出している。

望遠鏡で関船を見る呂左衛門ロルテス

関船は湊から離れたので、安心して伊勢湾を押しわたるために旗を掲げた様子だ。

「あれは志摩に居た千賀為親の旗?」

「わかるのか?」

「漂着した時に見覚えがあるねー」

呂左衛門はここに来るまでに色々と苦労があった様子だ。

季重が千賀と聞いて納得したようだ。

「千賀氏は志摩を追い出されて知多半島の師崎湊に移住しています。千賀氏とは知多半島先端の羽豆崎城を争った件もあり、千秋家と熱田衆に恨みのある連中が絡んでいるのかもしれません」

「そうか・・佐治家にも問い合わせてみよう、一目見たかったぞ・・草薙剣」

「普段から見られないですけどね」とつっこむ季重。

「民衆に盗まれた事が知れ渡れば、動揺が広がる」

「盗まれたものは偽物だということにしておきましょう」

「うむ、神宮には父上の増設した塀もあるが、これから先もやはり心配だな。

熱田の北側にある古渡城の再整備をして、湊に面する加藤家の熱田羽城も増強しよう。それから、

帰りに五器所村の佐久間殿にも巡回を頼んで警備を強化しよう」

「有難うございます。若様」

こうして、いつまでも船を見送っていてもしかたないので、熱田の静謐を取り戻すために、現場の回復に動き出す奇妙丸と町衆。


一郎左と桜が、奇妙丸の前に進み出た。

「我々は周辺にまだ潜んでいる者がいないか、捜索に行って参ります」

「うむ。ありがとう」

少し躊躇したが、確かめたいことがあった。

「ところで・・、盗賊は桜の知り合いだったのか?」

「隣村の黒川郷くろかわのさと、幼馴染のれいです」

「伴ノ衆は甲賀で抜け忍扱いをされているのか?」

「あちらで育てられましたゆえ」

「瀧川一益殿も、甲賀を抜けるのは鶴の身持ち[敵に襲撃されないかいつもキョロキョロと周りを気にする事]だと言っていたが・・。

そうだな、我ら織田家が大きくなれば良い、甲賀の里をも織田家が取り込めば、昔からの甲賀惣掟そうおきてなど意味は無い。古くて傷んだものは全て新しく取り替えて見せる」

「はい!」

奇妙丸の言葉に元気を取り戻す桜。

駆けつけた伴兄弟も表情が明るくなった。

兄弟衆達は、奇妙丸と共に織田家が大きくなってゆくことを望むのだった。

「桜は奇妙丸様の護衛を頼む。では、行って参ります!」

「頼んだ」

伴ノ衆を送り出す奇妙丸。

(この殿は、策略で人の心を掴むのではなく、天然に心が優しいのだな。暴君ではなく、民衆にとっては良い支配者になるかもしれぬ。奇妙丸殿のもとで私の理想の国が将来見られるかもしれない)

隣で成り行きを見ていた呂左衛門は思った。

奇妙丸を囲んで、傍衆、熱田衆、それに民衆が居た。

「皆、ご苦労だったな」

必死に戦ってくれた皆をねぎらう。

冬姫達もやってきて民衆は「冬姫ー!」と盗賊撃退に活躍した冬姫隊を熱狂的に迎える。

女中衆達は笑顔で応えた。

幸いにもこちらの被害は軽傷者が数人で戦死者はいない。

冬姫達にも後で感謝を述べねばならない。


*****


町内を巡回してから宿所の熱田羽城に入った奇妙丸は、本丸館の部屋に川尻下野守を呼んだ。

「吉治、ご苦労だった」

「若様が御無事で何よりです。まずは武田松姫からのご返事を」

吉治が大切に懐から取り出した木箱を受け取る奇妙丸。

とても嬉しそうな表情に吉治は満足する。

奇妙丸は表情を見られていることに気付き話題をふる。

「武田領はどうだった?」

「遠江と駿河の国境付近で、武田と徳川の関係が悪化しています。私は東海道を避けて木曽路を通って戻って参りました」

「それは、マズイな」

「信長様の対応にじれた家康が、先帝・後奈良天皇の十三回忌の法要の資金を単独で捻出すると言いだしています」

「それは、朝廷と独自の関係を作り、織田家から離れて独立するということか?」

「徳川独立の気運は、信玄公の織田・徳川分断策なのかもしれません」

「まずい、まずいな。岡崎には五徳姫たちが居るのに・・」

「今の所、織田と武田の関係は通常通りです。松姫の下へは、私は自由に出入りして良いと信玄公からお墨付きを頂けました」

「それに将軍家はさる六月二十二日に、正式に従三位・権大納言・征夷大将軍に任じられましたので、御内書を諸国に乱発し、守護や幕府相番衆に任命され、織田領内の城主達にも勝手に守護地頭を任命しようとしていると」

「徳川殿も幕府の任命した大名ということになるのか。信玄の策を将軍が後押しするような形だな」

「はい」

「これは、徳川殿が乗ってしまうと、父上の気性からいって織田と徳川の戦が起きるかもしれないな」

「しかし、徳川が独力で武田と戦う事はかないませんでしょうし、織田と武田が結べば、どのみち家康の生きる道はありませぬ」

「そうだな」

「足利義昭公は、織田家と対決するおつもりなのでしょうか?このまま行けば信長様と対決することは必至」

「草薙剣を欲する訳か・・」

(三河湾に面する千賀氏の動きは、ひょっとして?)

織田家にとって厳しい時期がくるのではないかとの予感に、奇妙丸は背筋の毛が逆立つような気がした。


*****


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