124部:一閃
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千秋の家来衆に、熱田町衆、奇妙丸達が袴の裾を持って全速力で駆ける。
中央にある社務所前で、草薙剣を収めた土用殿を襲撃した盗賊と遭遇した。
「ここは熱田の神域と知っての不届きか!」
真っ先に駆けつけた於勝が、十連針兼定を抜いて立ちふさがる。
奇妙丸が抜刀する。
「この相州貞宗で成敗してくれるわ!」
侍衆が一斉に抜刀したのを見て、黒装束に身を固めた盗賊たちが首領の下に集まる。
首領は横幅が広く、見るからに鍛えていることが分かる手強そうな男だ。
「ご神宝は頂いた!あとは退散するのみだ、散れ!」
そう言って、大きな体格の割に素早く宙に舞い、宮壁に跳び移る。
野盗の頭領の指示のもとに、盗賊達が東西南の三方に分かれて逃げ始めた。
「追え!追えぇ!」
「逃がすか!」
盗賊たちは熱田の壁を軽々と飛び越えてゆく。
「あの技?!」と一郎左、
「兄上、やはり」と桜が伴ノ一郎左に聞く。
「甲賀衆だな」
桜と一郎の二人の会話を聞きつけた奇妙丸。
「やはり、甲賀か?」
「若様、あちらには冬姫達が!」と於勝。
「まずい!」西門には、荷を解いて遅れて集まった冬姫率いる女中衆が居るはずだ。
遭遇する危険を察して、奇妙丸に森於勝が必死に追いつこうと走る。
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冬姫達も既に異変には気がついていた。
何か有るかもしれないと隊列を固めていたところに、見慣れない黒装束の集団がこちらに向かって走って来る。
「怪しい奴、逃しませぬよ!」冬姫が道の真ん中に立ちふさがる。
池田お久が手を振り上げた。
「撃て!」
号令と共に熱田神宮に火縄銃の銃声が鳴り響く。
お久のもとに冬姫女中衆で結成された女鉄砲隊が、日頃の訓練通りの実力を発揮する。
一斉掃射によりバタバタと黒川衆が倒れる。
「薙刀隊前へ!」
お久とは双子姉妹のお仙の号令で、冬姫女中衆で結成された女薙刀隊が勇敢に立ち向かってゆく。
一人ひとりが薙刀の間合いで広がった為、外宮の広い通りで大規模な乱戦となった。
その間隙をぬって中央突破を図る盗賊がひとり。
「そっちに向かったぞ!」
奇妙丸が冬姫の危機を感じ叫んだ。
「冬姫様!」桜も全力で走る。
「冬!」更に強く奇妙丸が叫ぶ!
「えいやっ!」
ドサッ!
冬姫の薙刀一閃。
冬姫に襲い掛かった黒装束の男の右手が落ち、男は数歩ふらつき崩れ落ちた。
倒れた男には、桜と一郎左衛門の投げた手裏剣と、奇妙丸の短刀が突き立っている。
そして、侍衆の後列で呂左衛門の構えた短銃が、銃口から煙を出していた。
「私も織田の娘です!」
勢いよく薙刀の石突きを地面につき立て、戦う事を宣言する冬姫。
「おおおおおお!」
冬姫の快気炎に、織田家の侍達の士気が上がり、冬姫に負けじと熱田の侍衆も全力で盗賊を追いかけまわす。
追い詰められた西門の盗賊衆達は、冬姫隊の活躍によりほぼ全滅したのだった。
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