12部:奇蝶、冬姫
岐阜城山麓、濃御殿<奇蝶の間>。
戸の外から入室をお伺いする。
「母上、お願いしたき儀がございまする」
「冬姫もでござりまする」
「なんじゃ、奇妙丸に冬姫」
うなずき合い、母への直訴決行を確認する二人。
「入りまする」
「これは、なんとしたことじゃ、奇妙丸が二人?」
「お母様、冬姫にございます」
「おお~」
「おどろいた、もうちょっと近くで見せておくれ」
「はい、母上」
「冬姫、男装も似合うのぉ。 で、二人の話とはなんじゃ?」
「実は、この奇妙丸、国主代行として領内検分の為、2~3日の外出の許可を頂きたいのです」
「ふむぅ」
「その間、冬姫が私の姿をして、家臣領民達には、私の不在は隠そうと思うのです」
「母上、私も兄上様のお役に立ちたいのです」と冬姫。
「そうか」
「それにしても、冬姫。いつにもまして可愛いの」
「え」
「信長様の若い頃そっくりじゃ」
「お父様に?」
「奇妙もうり二つじゃが、冬は更に妖艶じゃ」
「奇妙は既に14歳。元服しても可笑しくない年齢じゃが、奇妙が美濃の正統な継承権を持つことを領民に根付かせる為に、私との親子関係を世に定着させねばならぬので、わらわの側においているのじゃ、元服の儀はもう少し、待ってたもれ」
「そうなのですね、ありがとうございます母上」
「美濃の家臣供も、尾張の譜代衆と同じようにこの織田家に尽くして欲しい。しかし、外様・新参とわけへだてられる美濃衆の気持ちを思うと不憫でな、尾張衆にも、美濃衆はこの奇蝶と奇妙の譜代家臣、同じ織田家の仲間なのだという意識を定着させたいのじゃ」
「家中融和の為なのですね」
「ニ国を合わせる事もできなければ、天下など望みようがない」
「そうですね」
「古の何百年と平和な時代、女が学問を学べた時代、戦争のない時代を取り戻し、皆が家族と安心して暮らせる時代を、わらわは信長様とつくりたい」
「わたしもです」と母と父の理想に感動している冬姫。
「これは亡き父・道三、それに、織田信秀殿の夢でもあった」
「皆の夢ですね」
「検分の件わかった。冬姫がこの姿でいるなら、母は申し分ない」
「え」と、予想以上の母の反応にとまどう冬姫と奇妙丸。
「若き日の信長様をみているようじゃ~」
「は、はい」
「冬姫もわらわの愛する子じゃ」
満足げな奇蝶御前であった。
*****
山城国、京都一条妙覚寺。
「殿様、瀧川殿から書状が参りました」と捧げる小姓・万見仙千代。
「ふむ、・・・・・・・であるか」
書状に目を通す信長。
「蒲生と森の息子。ふっ。
一益には、近々伊勢に討ち入りするやもしれん。弾薬・兵糧の準備を怠るなと伝えてくれ」
「はっ!」
第2話 完




