117部:河内守
なんとか長島河内輪中の岸に泳ぎ着いた山路弾正。
後ろを振り返り、下流からの追手がいないか確かめ岸へと歩く。
水を滴らせながら、岸辺の岩に手を置いた時、掌に激痛が走った。
「ギャッ」思わず声をあげる弾正。
掌が岩ごと槍で串刺しにされている。
更に身長ほどある葦原の中から、喉元に槍が突き付けられた。
「ご苦労だったな」
「お主は?」
「赤幌衆、毛利河内!!」
「ムッ」
(毛利といえば、桶狭間の? 赤幌衆のお出ましならば、ここまでか)
瞬時に状況を判断する山路弾正。
抵抗しようとも、どれほどの人数が葦原の中に潜んでいるのかが判らない。
全身赤色の鎧で身を包んだ偉丈夫が岩の上から弾正を見下ろしている。
「山路正幽の御子息とお見受けいたす。大人しく我々についてきてもらおう!」
自身の正体まで特定されていることに驚く弾正。
「判った」
ガッ!
いきなり槍が引き抜かれる。
「くっ」
同時に血があふれ、岩が弾正の血で染め上げられてゆく。
繁みからは続々と毛利河内の手下の武者たちが出てきた。
(これほどの人数が潜んでいたのか!)
毛利河内守の手配の速さに驚く弾正。
(山路衆の面々も岸辺で多く討ち取られているのではないか?)
弾正は毛利の家来衆に後ろ手にされ膝まずかされる。
(生きていれば再起もできよう・)
弾正は大人しく縄に着いた。
第19話 ―完―




