116部:歴史的和解
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奇妙丸の周りに集合した旗頭の面々。
奇妙丸は、後詰に駆けつけてくれた瀧川警護衆に礼を言う。
「佐治新介殿、瀧川彦次郎殿、参陣頂き有難うございます」
「我々も大鉄砲が使える事がわかり収穫がありました。それに大安宅船を入手できましたから」
と新介益氏が答えるが、その言葉は服部衆の感情を逆なでする。
「大安宅船は返して貰う!」
気色ばむ政友。
「いやいや、弥富服部衆の造船技術は素晴らしいものが御座います。どうかその技を伝授して下され」
彦次郎忠征が慇懃に服部政友に頼む。
「うむ。船を渡す訳にはゆかぬが、これから造るならばよかろう」
服部党の面目を施したので、政友も断ることはしない。
「私からも頼む」
と奇妙丸を手を差し出して政友の手をとった。
「船造りには私も参加させてくださーい」と陽気な口調で乗ってくる南蛮人の呂左衛門をみて驚く、忠征と政友。
「では、呂左衛門と私も参加させてくれ」と奇妙丸も船を造る時は声を掛けてもらう約束を瀧川衆にとりつけた。
それから、奇妙丸に船団を預けてくれた一門や、譜代衆に礼をする。
「信興殿、秀成殿、秀政殿、堀田殿、服部殿有難う」
織田家当主を相続するであろう、奇妙丸の露払いをできたことを誇りに思う面々だった。
「いつでも呼んで下され、我々どこへでも駆けつけまする」
「頼りにしております。これからもご協力をお願いします」
「さしずめ、我々は奇妙丸軍団ですな!」
「有難い限りで御座います」
「それから木全殿、まさしく“槍木全”の活躍で御座いました」
「奇妙丸様こそ、自ら出陣される御働き我々感服つかまつりました」
「しかし、恩賞は出せぬのですが・・」
「これは防衛戦ですし、海賊を取り締まるのは警護衆の日常の役目で御座る。恩賞は不要でございます」
「さすが親父殿じゃ!」奇妙丸と父親のやり取りに割って入る忠征。
瀧川忠征と木全忠澄は手を取り合って健闘を称えあう。
「若様の前で我らの働きを見て頂いて光栄に御座る」
「これからも宜しく頼んだぞ」
「「はっ!」」
こうして、しばらくの団欒の後に旗頭の面々は満足した様子で乗艦へもどって行った。
服部政友の大安宅船壱番船は、破損が酷く遡上が難しい為、川を下って海に面した下市場城に向かう。
奇妙丸の乗る安宅船には、清州に向かう政友とともに、生き残った弥富服部衆も乗船する事になった。
清州城に帰還するため津島に向かいそこから陸路帰還する。
それぞれの湊へ川を遡上する船団。
残党が潜んでいそうな所は、伊藤氏が捜索してくれる約束だ。
「新太郎、於八、ご苦労だったな」
於勝、於八、新太郎を思わず抱きしめる奇妙丸。
三人は感涙した。それほどに今回の使者の任務は過酷だった。
「政友殿と話がついて、木曽川が静謐となって良かった」
「奇妙丸殿、我ら負けた訳ではおりませぬぞ」
「うん。和解だからな。まずは一緒に清州に参ろう。道中、弥富の事を色々教えてくれ」
「はっ」
奇妙丸の誠意を感じとり、弥富服部衆を再興するには、奇妙丸を盛り立てて行く事が先決だと感じる政友だが、先ほどまで命を懸けた戦いをしていたので複雑な気持ちでいる政友達。
「よいか皆の衆、これからは服部衆は我らの同士だ。両者互いに相手を侮り暴言を吐く者は、この相州貞宗で成敗する!」
刀を掲げた奇妙丸の宣言に、
「承知しました、我君!」
安宅船の船員達は緊張した面持ちで答えた。
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