115部:伊藤船団
長嶋城から出撃した船団に向かってゆく山路衆の小早船。
不断衆を失ったとはいえ、山路家歴代の譜代家臣は温存している。
「各船、防御陣形だ!」
弾正の指示に素早く反応する山路衆。
一紙乱れぬ動きで盾を構え、伊藤船団の攻撃を耐える態勢だ。
流れに乗った小早船は全速力で敵方に突撃した。
安宅船や関船の横をすり抜けて、河口への突破をはかる。
山路衆は鉄砲を惜しみなく乱射し、火矢を近づく船に射掛ける。
「むう、手強いのぅ」
最後尾の安宅船で、向かってくる小早船の様子を見ていた伊勢掃部助長時は、効率の良い攻撃を仕掛けてくる敵の動きに感心していた。
(どこに敵の大将はいるのか・・)
敵船団を注意深く見渡す。
中央の船で覆面の男が、各船に鐘の音で指示を出している事に気が付いた。
「奴は、確か・・」
味方の小早船に乗り移り、山路弾正の乗る小早船に近づく。
「そこの覆面の!以前どこかで会ったの?!」
「お主の気のせいだ」
「いや、その声も聞き覚えがあるぞ!」
「ではその手で正体を確かめて見よ、伊藤掃部助!」
山路弾正が腰の刀を抜いて一騎打ちの挑発をする。
「受けて立つ!」
伊藤長時は、伊達に長嶋願証寺と長い抗争をしてきたわけではない。
鍛錬に鍛錬を重ねた自身の武術には自信がある。
更に船を近づけて長時が飛び移ろうとしたその時、山路弾正が川に飛び込んだ。
「なにっ?」
弾正が飛び込んだのを見て、山路衆は一斉に川に飛び込み、それぞれの方向に泳ぎ始めた。
「逃げたぞ!撃て」
突如、山路勢の小早船群が次々と爆発炎上し始める。
弾正は「鉄はう玉」を自爆させたのだ。
その混乱に乗じて、山路衆は方々に向けて脱出する。
「むうう」口惜しがる長時。
伊藤船団の前の川面が炎上している為、下手に近づけば類焼する可能性があった。
「追うな!燃え移る!」
おとなしく様子をみる伊藤衆。
「油もまきよったな。見事な逃げぶりじゃ」
山路衆の潔さに脱帽する長時だった。
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