114部:交渉
((若いのに度胸があるな))
お互いの顔をみて両者が思う。
「服部殿、私は織田家の嫡男としてお願いしたい事がある!」
「なんだ?」
「我々の代で、織田家と服部家の長きにわたる確執を終わりにしたい。弥富の旧領を返してもよい。その代わり私に仕えてくれないだろうか」
「信用できん、特にお主の父、織田信長は!」
「もし、父上が服部一党に危害を及ぼすと言うのなら、私が楯となって命をかけよう。
そして、織田信長の家臣となるのではなく、私の家人となってくれ」
「ほう。できるのか?」
「私は争いのない世を日ノ本に作りたい。私の大事な人達が、いや、すべての人達が安心して生活できる世の中を築きたい。
服部党を守れず、日ノ本全ての人を守れようか。
私が信用できるまで、私の傍にいてくれ!
もし、二言があるなら、いつでも首を取って、他家に仕えるが良いだろう!」
「殿、信用してはなりませぬ!」
壱番船の面々が服部政友の傍に集まる。
「ここで散る命だった。しばらく長得ても、討たれるなら同じこと」
「いや、奇妙丸殿を信じ行く末見届けるのも悪くない」
弥富服部党の意見が割れる。
「殿はいかがなされますか?」
「「殿?」」
弥富服部党の面々が政友に注目する。
「・・・・判りました。領地が安堵されるというのならば、私も無駄な血を流すのは本意ではありませぬ。傍でとくと観察させていただきましょう」
「良くぞ申して下さった・・・」
奇妙丸が政友の目を正視する。
「どうか、力を貸してほしい」と頭を下げた。
奇妙丸の真摯な態度に感動した、服部衆。
大安宅船と安宅船の両船に、あゆみで橋が架けられた。
今度は、織田家の家臣衆を安心させるため、政友自らが奇妙丸の船にわたることにした。
安宅船に移動した服部政友が奇妙丸に歩み寄る。奇妙丸のすぐ傍らには桜、於勝、呂左衛門が控えている。
奇妙丸が前に進み出た。
奇妙丸と政友が握手をする。
そして、津島の町衆を代表する服部小平太一忠が見届け人。天王社に連なる堀田正則と正高兄弟、従兄弟の堀田一縄が仲介人となって両者の和解を誓約することとなった。
両者の幹部が津島天王社の神名の下で誓紙を交わす。
「では、下市場城へと大安宅船を曳航してもよろしいか?」
「承知つかまつりました」
(奇妙丸様はまた危険な人物を傍に・・)奇妙丸の大胆さを心配する桜だった。
服部一忠が奇妙丸の横顔を見ながら考える、
織田弾正家の当主は危険を好む性質がある。自身の天運を試しているのだろうか?
自らが見てきた織田家歴代当主の面影を奇妙丸に重ねていた。
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