113部:壱番船
「あの大安宅船を追え!」と指示を出す瀧川船団の首領・瀧川忠征。
「「おう!」」若い首領の下で歴戦の猛者達が、的確に動く。
「沈めるつもりで撃ちまくれ!」
大安宅船の船尾にむかって、瀧川船団の大鉄砲から放たれた砲弾が集中する。
大安宅船の後部に次々と大きな穴が貫通し、木片が吹き飛ぶ。
「大変です!舵がやられました!」船尾付近の船員が叫ぶ。
「むう、運は天にあり。流れに任せよ!」(宇治山田まで逃げるのは無理か・・・・)被害の状況を見て、全員の脱出方法を思案する服部政友。
弥富服部家再起の為にも、人員の被害は最小限に留めておきたかった。
対して、追いかける瀧川船団の士気は高い。
「誰か!帆を破れ!」
「私にお任せあれ!」梶原於八が自信有り気に名乗り出る。
距離は30間(70m)ばかり。
肌身離さず持つ武器に、開発したばかりの新弾を込める。
「国友銃槍!撃ち貫くぜ!!」
於八が愛銃を構えるとともに銃口が火を噴いた。
新弾は帆柱にあたり、帆柱の穴から炎が吹き出し、大安宅船の巨大な帆に燃え移ってあっという間に巨大な帆布に風穴を拡げてゆく。
「おおっ!? 帆が焼けているぞ!」
壱番船は動力源をも失った。
織田の軍船が動けなくなった大安宅船を包囲し、弥富服部衆の矢弾が尽きるまでと銃撃戦が展開される。
「これまでか・・・」
船と共に玉砕することを考える政友。
そこへ奇妙丸の乗船する安宅船が到着した。
「撃ち方やめえ!!」と於勝が叫ぶ。
於八もそれに気づき味方に射撃を辞めさせる合図を送る。
「撃つなー!撃つなー!」
奇妙丸の安宅船が、停戦の旗印を上げて大安宅船に近づく。
交渉の使者の印を出す安宅船をみて、
大安宅船の服部衆も反撃する事をやめて、軍船の様子を見守っている。
安宅船の船首に旗印を抱えた若武者が立つ。
瀧川一益を師匠とする奇妙丸の顔を見知った瀧川衆がざわつく。
(危険すぎる!)
瀧川衆の面々に緊張が走った。
「織田奇妙丸で御座る。政友殿と話がしたい!」
奇妙丸の声が響き渡る。
織田家嫡男の登場にどよめく弥富服部衆。
「承知した!」
家来衆が止める中、政友が船首に進み出てきた。
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