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織田信忠ー奇妙丸道中記ー Lost Generation  作者: 鳥見 勝成
第十八話(鯏浦城編)
111/404

111部:大安宅船

交差する船軍の様子を見る新太郎がつぶやく。

「先陣の船が沈んでゆく・・」実戦の迫力に戸惑う新太郎。

沈没した船から川に投げ出され救助を求める者たち。

両軍勢から出された小舟が、縁に泳ぎ着く者を救う。敵船の場合は捕虜になるか溺れるかだ。


壱番船の船長であり弥富服部衆の党首・服部政友が船員を鼓舞する。

「奴らの新兵器は強力だが、この船なら大丈夫だ!なんとしても突破するぞ!」

大安宅船おおあたけぶねは船高が高い、正面からの撃ち合いは見下ろされる瀧川水軍にとっては不利だ。

瀧川水軍の安宅船からは、船が横に並んだ時が大安宅船のまとが大きくなる絶好の機会だ。

お互いの狙いが分っているので、両者は一歩も引かない。

「このままではぶつかります!」両方の艦首の侍達が叫ぶ。

「「舵をきれ!」」両者同時に舵をきったが、船体側面が激しくこすれ合う。

両船の船体が近寄りすぎて撃ち合うどころではない。新太郎は激しい振動に船にしがみついていることで精一杯だ。

「肝を冷やしたな。わっはっは」新太郎に向かって余裕顔の佐治新介。



大安宅船の船尾には山路衆が居た。

「そりゃっー!」

船が離れる瞬間、山路弾正が佐治の安宅船に(鉄はう玉)を投げ込む。(鉄はう玉)は蒙古襲来の時に大陸兵が用いた手榴弾のような武器だ。鉄球に縄の持ち手がついた形をしている。

これは北九州で改良が重ねられ、鉄球の破片の飛び散る威力と共に、火炎の火力が向上している。

「手土産だ」

「「ドゴォーーーン!」」と鉄火弾が破裂し、船尾が吹き飛び火を噴く。

すり抜けた壱番船を、蟹江瀧川船団の安宅船が追う。


思わぬ損傷に火消しに走り回る佐治の船員達。しかし、新介は焦る気配はない。

続けて服部政光の弐番船が迫って来ていた。

政光が叫ぶ「鉄はう玉準備!」

新介も号令を発する。

「次は大鉄砲を打ち込むぞ!」

「おう!」

艦首にいた侍衆が甲板側面に移動する。

「「ドドーン!」」

侍衆の放った大鉄砲の弾は三発とも、大安宅船の側面に命中し大穴を開ける。大安宅船弐番船には急激に浸水し船が大きく傾き始めた。

「まずい」

服部政光は深刻な被害を受けた事を悟った。

安宅船の甲板も至る所で火が吹きだしている。鉄鍋や濡れた砂を炎に被せて火を消そうとする船員達。

「火消しはそのへんにしとけ!」

新介も乗船する安宅船がもう先は長くはないことを感じた。


「よし、次ぃー!」新介は次の参番船には再度、限界ギリギリまで安宅船をよせるつもりだが、船尾が破壊されたため、舵が言うことを聞かなくなってきている。

「こなくそ!」と足でおもいっきり押す。

安宅船は参番船の方向へと進路を傾けた。

参番船の服部政治は佐治衆がおとなしく川に流される様子ではないことを見て取る。

「奴等、怪しい動きをしているぞ、迎撃用意!」

大安宅船の船員たちに注意を即す。

船員たちは鉄はう玉を投げ込む用意をし、佐治の安宅船にとどめをさすつもりでいる。


新介が傍らの新太郎に声をかける。

「ついてこいよ」

そして、大声で佐治衆に呼びかける。

「よし、お前ら、いくぞー!!」掛け声とともに投縄を大安宅船の出っ張りに向かって投げつける。縄はクルクルと柱に絡まりついた。

船員たちも、縄や獲物を思い思いに持ち出して、大安宅船とすれ違う側の甲板へ集まる。

服部衆が大安宅船から鉄はう玉を投げ入れてきた。

「いまだーーーーーー!」

新太郎が最後尾の大安宅船に飛び移った。

服部衆の投げ入れた鉄はう玉が破裂し、安宅船の甲板で次々と爆発が起きる。

「佐治衆が乗り移ったぞー!」


大安宅船の船上で乱戦が起きる。

佐治衆、服部衆の両者が入り乱れて、切り合う。

新介の背後を新太郎が守る。

服部政治が新介に槍を構えて一騎打ちを挑もうとしていたが、新太郎が割って入った。

その様子は奇妙丸の安宅船からも眺めることができた。

「呂左衛門、お主の腕前を見せてくれ!」

「了解、若様」

呂左衛門は船の先端に行って、背負っていた長銃を持ち出し、脚を広げて甲板に固定する。

距離は百間(185m)以上は離れている。

政治の槍に、太刀で向かう新太郎は次第に船尾に追い詰められていた。

新介はそれに気付かず船首に服部衆を追い込んでいる。


長銃に備え付けた望遠鏡を覘く呂左衛門。

「あれが敵の大将さんかな? アーメン」

「パーーン」という一発の銃声がこだまする。

新太郎の目の前で、槍を振り下ろそうとした政治がのけぞるように倒れる。

大安宅船の船上が一瞬静寂に包まれた後、織田方に大歓声が起きた。

大安宅参番船の船長、服部政治が呂左衛門により撃ち抜かれたのだった。


*****


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