11部:水練大会、おひらき
「面白かったわ」と奇蝶御前。
「あとは皆、自由にせよ~」と奇妙丸が小姓衆に声掛けする。
「疲れ切る前に、早めにあがってこいよ~」と注意を則す瀧川の息子たち。
「鶴千代と於勝は、溺れる者がでないか小姓衆をみてくれないか」
「承知」と応える二人、しかし、
「冬姫も、もうすこし羽をのばして行かれましょう、ささ、」
と冬姫や侍女達も水辺に引っ張っていく。侍女たち側衆も楽しそうだ。
「では兄上様、またあとで」
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「奇妙丸、お疲れ様」と優しい奇蝶御前だった。
「奇妙丸殿、上達されましたな」と一益は褒める。
「瀧川殿、今日は有難うございました、皆喜んでいました」
「ようござりました、水練は楽しくやるほうが身に付きます」
「上様は幼少の頃より、よく野山を駆け回っておられましたし、元服までにはすべての川や沼に潜って尾張制覇されておられました」
「おそるべき人ですね」
「私の旦那様だもの」とのろける奇蝶御前。
あいかわらず、お熱いですのぅと言いたげな瀧川だった。
「それでは、先に戻りますね」と奇蝶御前一向は去って行く。
城までの沿道には、最近はめったに外出しない美濃の姫、奇蝶御前に、一目ご挨拶をしようと岐阜の町民たちが多く集まっている。
亡き道三も町民を手厚く保護してきたので、その遺児・濃姫を支持する声、潜在的な人気はすごいものだった。
「さすが、母上様」
「若は上様にも生き写しです。同じ才能を持っておられますよ」
「父に、一人前の武士として認めていただけるように鍛練いたします」
「天命により若は織田家嫡男に生まれました。常に御油断ならない場所にいなければならぬ宿命なので、たまには息抜きの冥加も必要で御座りましょう」
「有難うございます」
「それでは館に戻ってから、お茶をたてつつ、伊勢方面のお話をいたしましょう」
「あいわかった」
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岐阜城の屋形内、「奇妙丸の間」。
「瀧川様、この間は長山村で、領民を誘拐した覆面の男が「長嶋願証寺に連れてゆく」と言っておりました、伊勢の湊に人買いでも来て、人身売買をしているのでしょうか」と道具の準備をしながら於八が問いかけた。
「北伊勢48家の動向は、我ら随時見張っております。最近、斎藤龍興を匿った石山本願寺勢が不穏な動きを見せ始めておりまする。龍興については竹中・安藤殿が過去の因縁もあり追跡しておりますが、どうやら越前に向かった模様でして」
「本願寺と朝倉の橋渡しをしているのでは」
「北伊勢の関、神戸、長野家については津田一安殿が調略を進めております。私は、更に南の木造家を、配下の九鬼とともに揺さぶっているところです」
「神戸に養子に入った弟、三七丸は元気にしているだろうか」
「神戸家には三七丸様ご入城の際に我ら織田家のものが目付として入っておりますのでご安心下さい、信長様からはできるだけ犠牲者を払わず伊勢を手に入れたいと申し付けられております故、敵対せずに伊勢の諸豪族をご味方にしたいですな」
「人は城、人は石垣だからなあ」
「そういえば、関氏の下におもしろき男がおりまする。南蛮人の呂流丁主ロルテスとかいうもので」
「南蛮人」
「京都で噂の南蛮坊主なのか」
「いえ、船乗りのようです。近年日本近海を漂流して流れ着いた者らしく」
「坊主以外の南蛮人か、一度あってみたいのう」
(鶴千代は知っているのかな、後で鶴千代に聞いてみよう)
「奇妙丸様、世の中は驚くほどに広く御座いまする。日ノ本の外には大きな大陸があり、大国がいくつもあるそうです」
「うむ、私もいろんな所へでかけ、世の中の見るべき程のものをすべて見てみたいと思う」
(しかし、いくつか乗り越えないといけない問題があるな)
「どうされました」
「母上が、心配されるので遠出はできぬ」
「戦国の世、三七丸の件もありますし、時を惜しまれているのでしょう」
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