108部:槍の木全
木全忠澄は槍を振り上げて、小山に潜んでいた兵士たちに号令を発した。
「味方の援軍が来た! 反撃だ!」
木全忠澄の指示で山内を伝令が駆け巡り、小山の斜面に3つの部隊が編成された。
忠澄自身の指揮する部隊、一門の河内守の指揮する部隊、同じく兵部の指揮する3隊に分れ、城の北側と東西から攻め入り、南方のうぐい浦の湊に追い込んでゆく作戦だ。
「運は天にあり!!天は我らに味方している! 今こそ、友田の仇をとるぞ!!」
忠澄が兵士を鼓舞する。
「おおーっ!」
友田の仇討ちに一致団結した木全勢は、雄叫びを上げながら一斉に小山を駆け下りた。
城内と城下で、各家の土蔵を破り略奪行為をおこなっていた兵士たちは、俄かに起きた鬨の声に慌てふためく。
予想よりも早い織田軍の出現に慌て、山路・服部勢は大混乱となった。
兵士たちは略奪品も捨てて、唯一の脱出先である湊に停泊中の大安宅船へと走り出す。
「船に乗り込む前に追い打ちを駆けるぞ!!」
木全勢三隊は連携して、大きな喊声を上げながら、バラバラに逃げ出す賊軍を包囲殲滅する。
大将、木全忠澄の奮戦は目覚ましく、今までの悔しさをぶつける様な怒涛の突撃を繰り返した。
山路・服部勢は散々に追い立てられ、一気に大安宅船の乗船口へと追い込まれた。
追撃の恐怖にかられた兵士たちは、我先に船に乗り込もうとするので、後ろから押されて転ぶ者、川に転落するものが続出した。
「ええい! 混乱するな! 不断衆―、殿軍を勤めよ!」
不断衆に動揺が走る。
大将・山路弾正の下で、自分たちが捨て駒であることは理解しているが、武功を上げてこそ、人質にとられ残してきた身内が救われる条件で忠節を尽くしている。
うぐい島に置いていかれれば、全滅は必至。
一体誰が、自分たちの身内が救われたことが確認できるだろうか。
山路への不信感を抱きながらも、命令に従う不断衆。
船からは橋が上げられ、もう乗り込むことは不可能だ。
木全忠澄の部隊が、殿軍を務める不断衆に突撃する。
「友田衆の仇だ!」
忠澄は馬上から槍をふるって、不断衆を分断する。守勢に回る不断衆は城攻めの時の勢いがない。
「背水の陣」の隊列を乱され、続々と川へと転落し、重い鎧の為に溺死するものが続出した。
弥富服部衆は、碇を上げて太鼓の音とともに櫂を漕ぎ、船を川の流れに乗せる。
うぐい浦から続々と船が出港してゆくが、船に乗り込んだものは脱出する事に専念し、振り返って弓や鉄砲を放つものはいなかった。
山路・服部軍を散々に打ち負かして、復讐を果たした木全勢は勝鬨をあげる。
「「えい!えい!おー!」」
友田衆に届けとばかりに、いつまでも勝鬨は繰り返された。
*****




