104部:出航
小木江から木曽川を下る織田信興船団。安宅船4隻を中心とし、奇妙丸達の乗る安宅船の帆は、黒色に縁どられた織田家の家紋入りだ。
湊にあった安宅船(30m級)、関船(20m級)、早船(10m級)に兵士を満載して来ている。
商用船を含めた寄せ集めの船団とはいえ、織田家の幟を掲げ、意気揚々と進む姿は壮観に見えた。
更に、市江島の手前で、津島川上流から幟を立てず目立たないよう移動する安宅船3隻を中心とする船団と遭遇した。
その船団の先頭をゆく早船から、こちらに手を振る人影。
「奇妙丸様――!」
「おお!新太郎」
「この佐治新太郎、津島の堀田殿、津島服部殿から水軍を借り受けて参りました!」
「ご苦労―!」
手を振り返す奇妙丸。
「よし、これで戦力は十分だ。まず荷之上城を攻略する!」
「「はっ!」」奇妙丸の傍衆達が返事する。
「若―!‼」聞きなれた於勝の大声。
於勝も別の船から手を振っている。
「おおっ」
津島の安宅船が、奇妙丸の乗る安宅船に並ぶ。
「若様―!」於勝にのせられたように、奇妙丸に向かって手を振る武将達。
「津田秀政殿!それに織田秀成殿も!津島湊の船団を率いてきて下さったのか!」
強制されたわけでもないのに、自主的に参陣してくれた一門衆に心強く思う奇妙丸だった。
新太郎、於勝が小型の早船(より小回りの利く小早船)に乗り合わせて、奇妙丸の安宅船へ移ってきた。
「於勝、新太郎、ご苦労だった」
「合流できてよかったです」
「頑張ってくれたな」
二人の手を次々と取り、感謝の気持ちを伝える奇妙丸。
(奇妙丸様の期待に応えたぞ!)
二人にとって何よりの報奨だった。
「新太郎、悪いがもう一つ頼みたいことがあるのだ」
疲れているだろうが申し訳ないなという気持ちが表情で分る。
「お任せを! 私がお役に立てる仕事なのですね」
「うむ。我らは荷之上城を叩き、その足で鯏浦城に向かう」
「下流からも瀧川水軍の後詰が動いているはずだ。瀧川水軍に合流したら我らと時を同じくして鯏浦城に向かってほしいと伝えてくれ、下流で脱出する弥富服部水軍を待ち伏せてほしい」
佐治新太郎は、使者として市江島の東、筏川を下って瀧川水軍に合流する役目だ。
「おまかせ下さい!必ずや連れて参ります!」
再び早舟に急ぎ跳び乗る新太郎。
「出発――!」
尾張沿岸部の海西郡の生まれで瀧川水軍に顔の広い新太郎なので、敵と間違われる事はないだろうという人選だ。
奇妙丸は、南方に向かった於八が、瀧川水軍を動かし必ず駆け付けると信じていた。
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