103部:小木江城
尾張立田輪中のうち、小木江城内の城湊。
城普請の為の作業船や、湊防衛のための軍船が多く停泊している。
「これは、奇妙丸様。わざわざ当城まで足を運んで頂き有難うございます」
清州城で挨拶して以来の対面だ。
10歳年上の叔父(織田彦七郎信興)に対し、無礼の無い様に丁寧にお辞儀する奇妙丸。
「叔父上、お力添え頂きたく参りました」
信興はまだ二十代なので、叔父と呼ばれることが何かむず痒く、照れがある。
「叔父上と呼ばれるのは堅苦しいので、信興と呼んで下され」
奇妙丸の緊張を解き施そうと笑顔で対応する彦七郎信興。
「信興殿。弥富服部党が復活し市江島の荷之上城が再整備されているのです」
「それは! ・・・マズイですな」
「それに、もっとマズイことが」
「ニノ江湊から大安宅船が三隻出港し、鯏浦城に向かうようなのです」
「先にあちらが狙われましたか。いや、いずれ此方にも向かってくるでしょうな」
「水軍の戦力が前線であるこちらに集中し鯏浦城が手薄です。こちらから救援の援軍を出してもらいたいのです」
「判りました。あるだけの安宅船を出しましょう。しかし、大半は木材運搬用なので武装は劣ると思いますが」
「船さえあれば、あとは私が居るので大丈夫でございまする」奇妙丸の傍の大男が自信ありげな態度で口を挟んだ。
「この男は?南蛮人?」
日本人ではない見慣れない人間に警戒する信興。
奇妙丸が代わって紹介する。
「呂左衛門といいます。私の南蛮人の軍師です」
「ほ~う、面白い!」信興も織田家の男なだけあって、目新しいものを好む傾向がある。
「私も出陣しよう!」奇妙丸一行についてゆくことを決めた信興。
隣にいた自分よりも年上の武将に話を振る。
「信成殿留守居を頼む!」
信興は自分が出陣するので、信頼を寄せている一族の織田市郎信成に小木江の守備を任せる事にしたのだ。
「わかりました!信興殿」仕方ないという表情で答える織田信成。信成は、今は前線である小木江の城普請に増援として派遣されて来ていたのだ。
「我々で小木江を死守します」とその重臣・小瀬三郎五郎清長も応じる。
市郎信成は、織田信秀の弟の中でも猛将として知られた信光の息子だ。
奇妙丸にとっても縁戚にあたる。
そして小瀬清長は信秀の腹心で織田姓を与えられた造酒丞信房の息子で、弟に信長の小姓を務める菅屋於長がいる。
この二人ならば一揆の攻撃を受けても後れを取る事はないだろうと、信興の厚い信頼が見える。
「参りますか!」信興が奇妙丸を急かす様に軍船にむかって歩き始めた。
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