101部:湊の攻防
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部隊を潜ませて、荷之上城を確認する奇妙丸。
「呂左衛門、なんだその筒状のものは?」
「船乗りの使う望遠鏡というものです。覗いてみますか?」
「うん」
「おお!これは凄い。見える!見えるぞ!!」
興奮している奇妙丸。於勝が自分も覘くと奇妙丸が離すのを待ち受ける。
「荷之上城の状況はどうですか?」と冷静に聞く於八。
「あれは、完全に復旧して機能しているな」
「おおー!」望遠鏡を覘き興奮する於勝。
「これが沢山あれば伴ノ衆の潜入活動も危険が減るのではないか?」と奇妙丸。
「凄い!」於勝の次に覘いた桜も素直に驚いている。
「安宅船が出港するようですね」と呂左衛門。
「兵士の数も尋常ではないな」と考え込む奇妙丸。
「川下に向かって行くようだ、下流の鯏浦城が危ないかもしれない。あの船団を撃破するには、こちらも倍以上の軍船を集めねばならぬ」
「於八に於勝、使者を頼まれてくれぬか」
「なんなりと」
「私は小木江に向かい織田信興殿に援軍を頼む。於勝は北に向かい津島さらに一宮に援軍を要請してくれ。そして於八は南に向かって大野と蟹江の瀧川衆に援軍を頼んでくれ」
「「承知しました、我君」」
素早く二人が駆けだす。
「我々は小木江城に急ごう!」桜と呂左衛門に声をかけ、一団に戻る奇妙丸。
呂左衛門は奇妙丸の決断の素早さに感心していた。
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鯏浦城、物見楼閣。
島の東側を見る城主・木全忠澄は苦い表情をしていた。
「城をでるぞ!皆に退去の支度をせよと伝えろ」
「城をお捨てになられるのですか?」
「この兵力で籠城するのは犬死だ。今はあそこの小山に移動し兵力を温存する!」
「この友田忠左衛門、城を守れという使命を全うせず退去するのは歯がゆうござりますれば、我手勢と共に城に残り、死守してご覧にいれまする!」
「なんと」
「木全殿、後は任されよ」
「健闘を祈る」木全は友田を止めず、城に残ると希望するものは残し、従う兵をまとめて島一番の標高がある小山に向かった。
「皆の者、準備はよいか!」船上に居並ぶ鎧武者たちに呼びかける山路弾正。
「「おおーーーー!」」士気は盛んだ。
「接岸用意!!」
服部政友の号令一過、船を操る者たちは、水上での戦いに特化した身軽な装備で軽快に動き回り、安宅船の接岸準備を行っている。
うぐい浦の岸壁には、友田隊が待ち受け、接岸しようとする安宅船に対し火矢の準備をしている。
「火矢か、恐れるに足りん。鉄砲用意!」
火縄の焦げ臭い匂いが川風に混じる。
「織田の兵士をどぶ川に叩き込んでやれ!撃てええ!!」
「「ドゴーーーン!!」」
山路衆の鉄砲一斉掃射で、護岸上で火矢を構え待ち受けていた友田衆が次々と川面に落下する。
「これはいかん!撤退だ!城に撤退するぞー!」
守備側の弓矢の射程に入る前に、安宅船から驚くほど正確に狙い撃たれた友田衆は、上陸の阻止をあきらめ急いで鯏浦城に立て籠もる。
服部党の大型安宅船三艘が次々と接岸し始めた。
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