目の前にドラゴンが!
這い上がるように穴からその姿を現した竜、一歩…一歩大地を揺るがしながら此方へ向かってくる様は小さい頃に見た某怪獣映画のワンシーンを彷彿させる。
「逃げる」という選択肢が遅れた俺達に巨大な竜が眼前に迫る、朝食の最中で固まる俺達、その俺達を見下ろす竜…両者動かず、喋らずの状態。それはほんの一瞬だったがとても長い時間のように感じられた。
「…おい、何だそれは」
沈黙を破ったのは竜のほうだった。だが唐突な問いに俺は間抜けな返事をしてしまう。
「はい?」
「何度も言わせるな、貴様らが食しているものだ」
「えっと…パンとスクランブルエッグ、ベーコンです。はい」
「…食わせろ」
同時にまるで地の底から鳴り響くような唸り声にも似た音が竜から聞こえてきた。これに似た光景を俺は何度も目にしてきた。
「もしかして、腹減っているのか?」
「…いいから食わせろ」
首を降ろし口を大きく開けた竜、まるでトンネルの前に立っているかのような光景。どうやら拒否権は無いらしい、仕方なく全員の食べかけをかき集め竜の舌の上に乗せた。すぐに竜の口は閉じられる。だが、
「…おい、早くしろ」
竜の声には苛立ちが見え始めていた。
「いや、それで全部なんだが…」
リーヤもいる以上多少多めに作ってはいたが竜の巨体からしてみれば微々たるものだろう。
「足りんな」
でしょうね、あの量で満足できるとは思えない。竜が諦めてくれるのを祈るしかない。
「仕方ない…貴様らを食えば少しはマシか」
「な、何でそうなるんだ!第一そっちが勝手に来たんだろ」
「寝ていたところに旨そうな匂いを出していた貴様らが悪い。食われたくないなら我を満たせるモノを用意するがいい」
要は腹いっぱい食わせろって事か、しかし10メートル近い巨体を満腹にさせるだけの食事なんてそう簡単には用意できない。
「ちょっとアンタさっきから何なのよ!勝手なことばかり言って一体何様!?私達を食うっていうならその体まるごと凍らせて永久に冬眠させるわよ!」
「スィア!?」
「少しはできる精霊を連れているようだが…いいか人間、よく聞け。貴様らが我の腹を満たせば見逃してやる、つまりはその命を助けてやると言っているんだ。竜を相手にして何が正しい選択か貴様は分かるな?」
こいつは、竜っていうのはこんなにも勝手な生き物なのか?怒りが湧き上がるのと同時にある考えが頭をよぎる…交渉次第では今の現状も打開出来るかもしれない。
「…わかった、お前を満足させるだけの飯を食わせてやるよ」
「コーヘイ!?」
「孝平!こんな奴の言う事聞く必要ないわよ、こうなったらやっぱり私が」
スィアを制止させると竜を睨み上げる。
「お前、期限は決めてなかったよな?なら何日掛かっても良いのか?」
「ほぅ…良かろう、「我の腹を満たす」のが条件だったからな。では、それまで貴様らに危害を加えることは無い。早く食事の準備するがいい」
よし、今の言葉が聞きたかった。早速交渉に移る。
「あぁ、じゃあこちらからも条件を出そう」
「…何?」
心臓がバクバク言っているし、変な汗が噴き出てくる。口も渇き声が掠れながらも言葉を紡ぐ。ここで負けてはいけない。
「何って、お前の食事を作る代わりにやって欲しい事があるんだ」
竜は何も言わない、ただ俺を睨み凄んでいる。
「お前、翼があるってことは飛べるんだよな、それで1度だけ俺達を乗せて運んで欲しい」
「貴様、それが狙いか。下らん、今すぐ全員喰い殺してやろうか?」
「さっき危害は加えないって言ったよな、あれは嘘か?だとしたら竜っていうのは随分といい加減な生き物なんだな」
ここまで言うつもりはなかったが後は賭けだ。
「…ククク、面白い人間がいるものだ。まさか竜を丸め込もうと考えるとはな。今まで聞いたことも無い…やれやれ勇ましいのか、愚かしいのか」
「あいにくこの世界の人間じゃないんでね」
何だか楽しそうに笑う竜、だがそれを堪えるように
「いいだろう、貴様の話に付き合ってやる。改めて言おう…貴様が飯を作り我の腹を満たす。その対価として1度だけ我の背に乗せて貴様らの望む地に飛んでやろう。だが違えば貴様ら全員を喰い殺すからな、これは契約だ」
「…わかった」
まさか本当に上手くいくとは、竜の機嫌が少しでも悪ければ言った事を反故にされ喰われていた可能性もあった。そういう意味ではさほど悪い竜でも無いのかもしれない。全身の力が抜け地面に座り込む。
「どうした人間?」
それを見てにやりと笑う竜。
「何でもない、食事の準備をするから待ってろ」
とにかく、俺も自分の言ったことを守る為立ちあがる。大量の料理に必要な食材の…仕入れだ。




