1.遭遇と接続(8)
車の後ろに積んだパワードスーツの入ったメモリーバッグを取り出す栗栖に掴みかかる。
「まってくれ、なんか妙だ」
「ああ、妙だな」
正直驚いた、栗栖のあの反応も演技だったということになる。
「プログラムなら事前にチェック可能だ、仮に本当に不測のエラーだったとしても暴走すること自体がおかしい」
そう、そんなに致命的な欠陥なら気がつかないほうがおかしい。プログラムは外注だったけど書類を見る限り、制作会社は同じく警備部門の系列会社。となるとこの暴走は仕組まれていた可能性が高い。
「僕は宵月って奴が怪しいと思うけど……」
「そうとは限らない」
首を縦に振る、書類を見る限りネット経由でのインストール。途中に何らかのウイルスが紛れ込んだ可能性やデータを差し替えられた可能性が否定できない。
あの開発者はそのことに一切触れることがなかった。
外部からの介入ならそっちの方に人員を割いてこっちは陽動、悪く言えば使い捨てのコマのつもりなんだろう。
わざわざ「私たちは無力です」と外部に知らしめるような組織が警備部隊なんてものを用意しない。むしろ実力があることを嫌というほど誇示しない限りほころびが生まれるような『強固』な組織だ。
「どうする? 別行動をとるのも一つの手だ」
「それより研究所においてきたヤ……あいつに目を光らせなくていいのか?」
念のため周囲の人の目を気にしておく。あのまま放置は個人的にもオススメできない。
「どのみち一旦オペレートするにも別行動取るにしても、だ。研究所から遠隔通信とデータリンクをしやすい専用車両を持ってこないと行けないからよ、連れて行っちまおうぜ?」
リスクが大きくないかと思ったけど常に目の届くところにいたほうが安心できるというのもまあ、納得できる。それにまだあの少女には聞きたいことが山ほどある。
「って病み上がりなのは考慮しないんだな」
栗栖は最高にいい笑顔で「何を今更」なんてほざきやがる。実際きついけど僕のやることは決まっているという点でもう選択肢は潰されても同然だ。
やるしかない、そうだろう。
このまま逃げたって何も変わらない。攻めても変わらないからいい加減、心も折れそうになっている分、肉体の消耗も疲弊も大した問題じゃない。
パワードスーツを装着する。最後に着けてから一日と経っていないのに随分と懐かしくて、同時に妙な安心感も覚える。
「予測出現ポイントに先回りしておく、発見したらとりあえずお前か警備部隊の指示があるまで監視しておくよ」
「OK、無茶すんなよ? あと忘れ物だ」
栗栖が放り投げたウェポンデバイスを左手で受け止める。
「ん? メモリースロットが一つ増えているけど何を入れたんだ?」
「ワイヤーガンだ、捕縛に役に立つと思ってな」
メモリーからの変換テストをしてみるとユニットの後部に大きなドラム状のものがついただけの、文字通り大きな筒が出てくる。ガン、というよりランチャーといった印象だ。
「くり返し使えるけど当然巻取り時間と火薬の再装填に時間がかかる、細かい使い方は合流してからだな」
いつの間に作ったのかと言いたくもなる。それとも『POWER=S』での運用をさせなかったのは見栄えの問題なのかもしれない。地味な外見の上この上なく不格好だ。
「今は速さが全てだ、ぬかるなよ?」
「善処するよ」
一難去ったらまた一難、晩御飯は病院食以外ならなんでも食べたい気分だ。また入院なんてことは勘弁願いたい。大会の時のような無茶もしないようにしないといけない。相手は本物の『兵器』
「ああ、もう一つの違和感はこっちか」
なんで素人に任せたということ。こっちは一対一の戦争ごっこをしている作戦とかそういうものには無縁の人間だ。どさくさに紛れてこのパワードスーツの略取を狙っている可能性とかも考慮するべきかもしれない。
「技術レベルだけは最高水準だからな」
ブースターを起動して一気に建物を乗り越える。
目的の地点にたどり着くのはそう時間はかからないだろう。