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1.遭遇と接続(9)

「いきなり見つけちゃったよ……」

 まいった、本気でまいった。

 指定された目標地点に到達して顔を上げたら資料で見たASIDAKAが目の前にいるなんて笑えない冗談でしかない。植林されている公園ということが幸いしてこっちの姿は見られていないみたいなんだけど。

「すごく楽しそうに滑り台に興じているな」

 お前は幼稚園児か、はたまた小学生かと疑うような行動をとっているASIDAKAを見ていると頬が引きつる。本体のみ滑り台のレール部分に乗っかって投げ出された八本の足がシュールすぎる。

 僕がTV番組の企画とか担当していたら間違いなく「童心に帰ったロボット!」っていう題名でお茶の間濁しの番組を提案する。

 冗談は置いておくとして、ここは住居の多い地帯。へたに触発して暴れられるわけにもいかない、とりあえず静観するしかないわけだけど……。

 どこをどう見ても暴走しているようには見えない。しいて言うなら遊び心が爆走しているとしか言いようがない。人間相手なら話し合いで決着がつきそうな錯覚すら覚える。

 空を見上げると一年前に完成した超高度演算システムタワーへの軌道エレベーターが雲のはるか先まで伸びていた。一般人は中に入ることはできないけど、確か今日は完成記念式典もやっていたはず。

「平和だなぁ」

 そうぼやきたくもなる。とにかく見失うことがないようにしっかり行動を注視しておかなくてはいけない。

 急に対象物が動きを止める。もしかして見つかったのかと、身構えたけど滑り台から降りて今度は歩いて公園から出て行った。

「栗栖聞こえるか?」

 まだ通信可能圏外みたいだ。仕方がないからゆっくりと後を付ける。

 この先は確かハイウェイの入口がある、今日は混雑率もかなりのものだったはずだから万が一のことがあってはいけない。

「こちらK、警備部隊(セキュリティ)応答願います」

「こちら警備部隊、どうぞ」

「対象がハイウェイに侵入する恐れがある、交通の規制か出入り口の封鎖を」

「了解、出入り口の封鎖のみ行う」

 随分と聞き分けがいいのか、それとも要求しか答えられないのか。できることなら両方やってもらいたかったんだけど。

 栗栖はまだなのだろうか、という一瞬の焦りがいけなかったのか小枝を踏みつけてしまったのが最大の失態だった。

 ASIDAKAは驚いたようにこっちに振り返り、こちらの姿を認めた瞬間に高速で逃げ始めた。

「何が高機動だよ! 高機動なら速度はある程度落としてくれ!」

 この場にいないとある二人への恨み言を履く、通常の走りでは間に合うはずもない。ブースターを起動して追いすがる。

 林を抜けた先に封鎖されたハイウェイの入口が見えた。ワイヤーガンをスタンバイする。ぶっつけ本番だけど少しでも動きが止まれば拘束は格段にしやすくなるはず。

「んげ……RPG」

 対象がマテリアライズした兵器は無誘導のロケット弾。流石にこのパワードスーツでも爆風でさえくらえばひとたまりもない。ワイヤーガンをデータに戻して回避行動に専念する。

 そのつもりだったのに対象は正面の閉鎖中のハイウェイの入り口に向けてぶっ放した。当然そんな過剰な破壊活動を想定していない急ごしらえのバリケードは吹き飛ぶ。

「積んである武装はそっちが把握しているんだからそれに対応した防衛策を使えよ!」

 もう突っ込まずにはいられない。ハイウェイは今日記念式典に向かう観光客の車でただでさえ混雑している。被害が出たら犠牲がとんでもないことになってしまう。

「ちくしょう! 来栖早く来てくれよ!」

 一人で熱量管理をしながら周囲に気を配り、かつ追跡&捕獲なんて考えただけで思考演算がオーバーフローする。

「何とか間に合ったぞこの野郎!」

「来栖遅いっ!」

「わりぃ! 道路混雑しすぎでよ、追いつくには二輪タイプのものを拝借する必要があってな!」

 よくよく考えたらトラックタイプではこんな混雑したハイウェイで支援というのは困難だろう。しかし運転しながらナビできるのか。まさかとは思うけど

「えーとこれが熱量計でこれが速度計で燃料計……」

「燃料と熱量の計測器は逆ね。ヤコ、頑張ってくれよ!」

「は、はいっ!」

 不安だ、激しく不安だ。

「あの彗さん」

 いきなり本名で呼ばれて戸惑う。この作戦中はいつも通りのパイロットネーム「K」で通してもらうつもりだったんだけど。

「大丈夫だ、ヤコとお前の回線は一応秘匿回線にしてある」

 無線を傍聴される可能性は低いって言いたいんだろう。

「わかった、何か提案でも?」

「いざという時のためにブレイン・コンタクト……頭脳とのリンクをさせてください」

 それは体への負担が大きいはずではないかと思ったが並列演算中限定での負荷増大ということなのだろう。最初から最後まであんな状態はむしろ勘弁願いたい。

「OK、ただ作戦終了と同時に解除してくれよ?」

「大丈夫です、要請があり次第並列演算を行なうことと、ラグなしでの情報伝達が一番の目的ですから。こっちのほうが無線以上に傍受される危険がありません」

 直接脳内に響くヤコの声。なるほど脳波は読み取れない、そういうことか。

 これだけ混雑していると路肩のみの利用で済ませたいけど対象はそれを許してはくれないらしい。

 ハイウェイの天井を塞ぐドーム状の屋根を走ったり、車と車の間を抜けていったりするので追いかけるのが大変なことこの上ない。高機動の売りは伊達じゃなかったらしい。こっちも高機動なのは一緒。でも速度のほうに重点を置いたものだから正直これほど移動するものが周囲にあると判断が追い付かない。

 混雑していたのが幸いとしか言いようがない。車線変更を行う車が少なくなっている分急制動はあまり行わなくていいからだ。

 急制動を行うと体がきついのもそうだけど熱がたまりやすい。あんまり頻繁に止まったら追いかけるどころか置いてけぼりを食らってしまう。

「くっそ速いな……」

 走行中の車がそれなりに速いおかげで相対速度がいつもより遅く感じるのはいいことかもしれない。正確に言うと地面や景色を見ている余裕はないから移動する車両の群れにだけ気を配ればいい。もっと細かく言うなら余裕がない。

 ヤコが耐熱限界までのパーセンテージを10刻みで教えてくれる。おかげでブースターもスラスターも途切れないで見失うことのないぎりぎりの駆動力を確保できる。

「栗栖もヤコのナビを見習ってくれ」

「俺にはなんてナビしているか全くわからないんだが?」

 そういえば脳波での通信をしているから栗栖には聞こえていないんだった。

 窓から出てきた小さい手に気がつきスラスターを噴射して飛び越える。一瞬見えたその子供の顔が大口をあけた状態から目を輝かせたのに思わず苦笑い。

「危ない!」

 使い古された交通用語が一瞬頭に浮かぶ。

 ――――注意一秒 怪我一生

 怪我なんて治るものだろ、とかオートドライブ全盛の交通事情に沿わないのに再び使われだしたという標語。なんで上に逃げたのか、自分の迂闊さに歯ぎしりする余裕もない。

 ごくまれに存在するマニュアルドライブの車両のために取り付けられた交通監視カメラの高さまで飛んでしまった。衝突したら首の骨が折れるどころじゃない、下の方向に飛ぶようにスラスターを噴射する。もちろんその勢いのまま着地したら大怪我してしまうから逆噴射も必要になってくる。そのまま正面の対象を追いかけようとブースターを噴かした。

「そっちに逃げたらダメ!」

 ヤコの悲鳴にも似た声に自分の状況を理解する、よりにもよって右手側に車線変更をする車両が二台。車両側からは死角でこっちのことは見えていない位置だ。

「くっそおおお!」

 逆噴射の出力をそのままあげて天井に向かって飛ぶ。

「ケイ! 熱量が!」

 まずいと思ったときには遅かった。HUDに表示されるオーバーヒートの表示に強制放熱で機能を一時停止するブースターとスラスター、あとはこの車両の群れの中に自由落下していくだけ。

「ワイヤーガンを天井に打ち込め!」

 栗栖の怒声で諦めかけていた思考に電流が走ったように体が動いた。ウェポンデバイスを取り出してマテリアライズを行う。

「間に合え!」

 天井に向かって飛ぶワイヤーガンのアンカーがめり込んで一気にワイヤーを巻き上げる。

「ぐげっ!」

 勢いが強すぎて腹部にワイヤーガンの本体がめり込んだうえに頭を天井にぶつけてしまった、天井もひびが入っている。このパワードスーツは耐衝撃性能でもこれだけのダメージというのはどういうことなんだ。

「おい来栖、このワイヤーガンの巻取り速度いくつだ」

「発射が時速1000km 巻取りが時速600km」

 内心で「殺す気か! そしてどこが捕獲に使える、だ!」と叫んだのはヤコに聞こえているんだろう。どうフォローしたらいいのか迷っている思考がダダ漏れしている。

「発射速度がほぼ音速って破壊する気満々じゃないですか?」

 ヤコがフォローを諦めて来栖にひきつった顔で説明を求めている様が通信機越しによくわかる。

「いかすだろ?」

 あとで来栖を殴ろう、そう決心する。冷却が終わるまであと2~3秒は動けないし狭苦しいフェイスカバーを開放する。とっくに遠くまで行ってしまったと思ったASIDAKAがまだ視界内にいる、というか止まっている。いや、こっちをじっと見ている。

「もしかして、こっちを観察している?」

 そんなわけがあるか、と首を振る。作り物でそのうえAIで動く存在がわざわざ立ち止まって観察? バカバカしい。だから天井に張り付いたまま本体部分を上下に動かしている姿がまるで喜んでいるように見えるのも気のせいだ。

 滑り台で遊んでいる姿を見たからか、人間の子供のような印象を受けてしまったのかもしれないけどそれはない。そんな高度なAIをネットワークで転送なんてそれこそありえない。

 そんなことが出来るならあの実験であいつが消えることもなかった。

「感傷に浸るのは後にしましょう、冷却完了しました」

 ヤコの声が心なしか沈んでいる、何か思うところがあるのだろうか。

「了解、追尾と捕獲に復帰する」

 考えるのは後、今やるべきことは目の前にしかない。

 特に混乱などが起きたわけではなくて助かった、としか言えない状況の所為か妙に心が落ち着いている。元から期待されているわけでもないから変なプレッシャーもないんだろうと自分に言い聞かせる。

 疑問を抱えたところで何もいいことはない。そう、思い出すな。

 閉じたフェイスカバーに表示されるTGT(ターゲット)の表示を睨みつける。ASIDAKAは足を折り畳んでほとんどブロック状の形態になったと思いきや、通気点検口の網に突撃。意外と狭いところにも入れるらしい。そんな機能『POWER=S』のアリーナなんかに必要ないだろう、これだから研究者とか開発者とか言う連中はわけがわからない。

「対象の現在位置把握はできてる?」

「通気点検口から通気口をまっすぐ突き進んでそのまま屋外のビル街に出そうだ、追い込みポイントまでもかなり近い」

「了解!」

 こっちでも匍匐前進でないと進めないような狭い道だけどこのスーツならブースターの推進のおかげでむしろ速く移動できる。

「光が見えた、対象の状態は?」

「待ち構えているみたいだ、警戒!」

 ASIDAKAのマテリアライズした武装を思い出す。

「相手はいま何を武装している!」

 来栖とヤコの沈黙が不気味だ。警戒するべき武装を構えているのなら間をおかずに伝えてくれるはずだ。それなのに黙っている。思考で繋がっているはずのヤコが戸惑っている様子しか伝わってこない。

「えっと、ボールで遊んでいます」

「……は?」

 ごめんなさい、言っている意味が全く理解できません。

「言葉のままです」

 いやいや相手さんは兵器のはず、そんな余分な行動はしないに決まっている。そこで滑り台で遊んでいたASIDAKAの姿を見てひとつ思ったことがある。

 あれの中にあるAIは成長する『子供』なんじゃないかという可能性だ。

 そんなAIを作っていたとしたら恐ろしく高度な技術の結晶だから破壊はしたくないだろう。「遊び」は発達の過程で絶対になくてはならない行為のはずだ。でもそんなに高度で重いプログラムを転送しようとするだろうか?

 ネットワーク経由ではなく物理的に中身を運ぶはずなのになぜそうしなかったのか。あるいはAIの学習機能はもともとなかったとか?

「まさかね」

 やけに長い通気口を突き抜ける。銃口から抜け出す弾丸になったような気持ちだ。いつも以上に空高く飛び上がる。

「対象を目視! 冗談みたいだけど確かに遊んでるみたいだな」

 正直通行人が唖然としてASIDAKAを見ている、巻き込む可能性もあるから武器を使うことも使わせるのも抑えなければならない。そのASIDAKAの足が沈み、身構えた。何か攻撃行動に出るのかと思いきやボールが飛んでくる。思わず両手で受け取ってしまった。

「ケイニイチャンダヨネ! アソボウ!」

「……は?」

 僕と来栖の声が重なる。ヤコの「えっ?」っていう声も脳内に直接来た。どうやら来栖の耳にも無線を介して聞こえていたらしい、というより周波数を合わせられたんだろう。

 ただ来栖と僕の驚きはたぶん違う。来栖は純粋に状況とか相手の行動がわからないことからの動揺だとおもう。冷静に他人の分析をしている自分が嫌になる。本音は僕自身がなんでこんなに動揺しているかという事実から目を背けたい。

 僕の記憶の中で「ケイ兄ちゃん」なんて呼び方をする人物は一人しか思い浮かばない。

 あいつはもうこの世にいないはずだから。

「健一、なのか?」


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