3:ホーリナー
Japan Mountain path
小町は腕輪の宝石に触れる、帝釈天と同じように銀色の液体が現れた、細くて長く変形し得物と化す、得物は長刀、小町の背よりも長い長刀。
小町は驚き長刀を見回す、何故か手にしっくりとくる、昔から使いこんだような握り心地、腕のように使い易い。
小町は切っ先を斜め下に向け背筋を伸ばし凛と立つ、目を閉じて全てを目の前の化け物に集中する。
地面を蹴る音を聞き小町は目を見開く、化け物は振り上げた爪を小町に向かって振り下ろす、小町は頭上で爪を防ぎ弾こうとした、しかし爪はあっさりと切れ、大きな弧を描き切っ先が斜め上を向いた時、化け物の肩口から脇腹にかけて長刀を振り抜く。
化け物のは綺麗に斬れ、血を吹き出して消えた、残ったのは小町と手に持った得物のみ。
「何コレ、刀?」
小町は長刀を目の前に掲げて眺めた、小町は目の前の化け物を軽々と斬ったその刀を、見た目よりも軽く、切味は異常なモノ。
小町が呆気にとられていると後ろから足音と話声が聞こえた。
「緊那羅、この辺だよな?」
「はい、最後に信号が消えたのは…………、そこにいるのは誰!?」
「(はぁ、また英語?)」
小町は後ろの女性、緊那羅の声に肩をすくめた、長刀を持った小町も異常だが、先ほどからの変な名前、帝釈天や緊那羅も十分異常である。
「はぁ、また変な名前」
「新入りか?名前は?所属の隊は?」
「名前は天獅子小町、それ以外は正しい答えが思い浮かばない」
「一般人!?貴方、ホーリナーじゃないの?」
「ホーリナー?」
小町は異様な名前の数々に頭の整理がつかないでいた、難しい人の名前、ホーリナーなる者、新入りや隊、小町にはそれが変な団体という事しか分からなかった。
「もしかして新しいホーリナーじゃないのか?」
「そうかもね」
「貴方達で納得しないで、私に分かるように会話して」
小町は今の状況に着いていくので精一杯だった、目の前に化け物が現れ、武器を持ち化け物を斬った、何故自分がそのような状況に陥ったのか、それが知りたかった。
「俺達は《Vatican churchman subjugation organization》、日本語に直訳すると《バチカン聖職者討伐団》、俺達は《VCSO》って呼んでる、神父やら牧師やら神主がいるだろ、それの武闘派集団だ、《VCSO》は一国に一支部ある、俺達は日本支部員。
俺達の目的は人間界にさ迷う、……日本では霊や鬼、妖怪とかの化け物等を文字通り討伐するのが目的だ、化け物は総称して《ダークロード》って呼んでる、外国だと龍とかその他亜人、精霊なんかも場合によってはダークロードだな。
次はホーリナーについてだ、ホーリナーってのはこの腕輪、正確には《ディアンギットの腕輪》に選ばれし者、つまり神に選ばれた者の総称だ、例外はあるがな、この腕輪を着けている以上《VCSO》の加入が絶対だ、拒否した場合は強行手段をとらせてもらう。
最後に自己紹介だ、俺は迦楼羅、コイツは緊那羅・神徳は音楽神、小町ちゃんだっけ?君の‘天獅子小町’って名前は今日で捨ててもらうから、その事はまた本部で、本部って言っても俺達が‘本部’って呼んでるのは正式には日本支部なんだけどね。
じゃあ質問や要望、コメントから愛の告白まで何でも聞いちゃうよ」
真面目な顔で説明していた迦楼羅が、一瞬でおちゃらけモードに突入した、小町はそれをシカトして今までの話を整理する。
「VCSOはバチカンが本部なの?」
「そう、表向きはキリスト教だけど、神の総本山みたいな感じだね、親分はローマ法王ね」
バチカンはキリスト教で有名な場所だが、裏ではこんな武闘派集団が構えている、小町は今ので余計に頭がパンクに近付いた、恐らく今までの教養を全て無くしてから聞かないと頭には入らないだろう。
「霊まで殺す理由は?お坊さんとかに任せれば良いじゃない、それに49日とかお盆とかいう可能性もあるじゃない」
「それは宗教的価値観だろ、49日もお盆も仏教だろ、天国も地獄もありゃしない、だから人間界にいるのは全てがダークロードと判断する。
お経や塩、聖水とかその他諸々は一応効果はある、でも人間にとっての公害みたいなもんだ、嫌がるだけで殺せはしない、希に人間が襲われる事もある、最終的に処理するのは俺達ホーリナーだ」
小町は今までの常識を捨て去り、やっと迦楼羅の言う事が頭に入るようになった、しかし頭が痛くなるような内容に変わり無い。
3人は小町を日本支部に送るついでに小町の質問に答える事にした、日本支部は京都にある、他の国もその国の宗教の中心地にあることが多い。
移動手段は車、異常な速度で走る車に小町は不安を感じていた、法定速度を軽々越している、警察に捕まる事が不安だった。
「警察になら捕まらないよ」
「えっ?」
「俺達は神に限りなく近い存在だ、そんな人間の記憶にいちいち残る事してたら今頃宗教は潰れてる、この腕輪を着けている限り記憶には残らない、便利なもんだろ?」
「悲しい、友達も親も全てを失うって事でしょ?」
「みんな辛い、私も記憶があるだけ最初は辛かった、迦楼羅は記憶は無いがな」
小町は驚いて運転席に座る迦楼羅を見た、迦楼羅の顔はいたって普通、後ろの座席で女らしからぬ格好で寝転がる緊那羅も普通だ。
「さっき言っただろ、入団しないなら強行手段で連れていくって、記憶を消して人生をリセットするんだ、多分俺は入団を拒んだんだろうな」
「でも、そっちの方が楽そうね」
「そうでもないわよ、記憶の消し方は脳の細胞を封印するの、だから短命になるし戦闘能力も下がる、だから迦楼羅は私より弱い」
小町は複雑な心境だった、コレからなるであろう先程のような戦いの毎日、その世界に興味を抱けたが、前の生活にも未練がある、それなら記憶を無くした方が楽かもしれないということ。
「記憶が無いのは辛いぞ、俺の知ってる世界はこの生き死にの世界だけだ、他を知らない、有って邪魔になるようなモノじゃないよ、記憶ってのは」
「分かったわ」
小町は今も過去も背負う事に決めた、迦楼羅の顔がとても悲しい顔をしてたからだ、こちらの世界に興味があるのなら未練もいつかは無くなる、その時まで我慢した方が楽だろう。
「じゃあ質問に移るわよ、この腕輪は何?」
「この腕輪は俺達の武器でありホーリナーの証、コレは腕を切っても離れないからな、これから出てくる武器は無限物質だ」
「無限物質?」
「そう、人間界のモノは全てが有限物質だ、髪の毛や傷などが回復するのは他のモノをその形に変えてるだけ。
でもこれは違う、折れたら再生する、武器によっては一度にいくつも出せるのもある、普通は一度に一つの武器だけどな。
それにこの腕輪は絶対に壊れない、ディアンギットっていう神様の片割れらしが、本当かどうかは分からないけどね、それに俺達の武器も人間界のモノでは破壊出来ない、ディアンギットの鉄はディアンギットの鉄でしか壊せない」
長い話で緊那羅は既に寝ている、もう夜も遅い、小町は寮に電話を入れようとしたが自分の存在が消えた事を思い出し、悲しみが押し寄せた、志穂も小町の事を覚えていない、その代わりに隣にいる迦楼羅なる男性と、後ろで寝ている緊那羅という女性、この二人が仲間。
「じゃあこの刺繍は?」
小町は迦楼羅の真っ白なTシャツの右側にある黒い刺繍を指差した、長いパーマの髪の毛に、口を覆う長いヒゲ、中世ヨーロッパの初老の男性、恐らくこれも神の一種だろう、帝釈天のコートにも同じモノがあった。
「このおっさんはカミゥムマーン、神様の中の神様みたいなもんかな、俺達のお父さんとかそこらへんじゃない?
白い身に付けるモノにこの刺繍を入れるのが決まり、小町ちゃんも本部に行ったら希望聞かれるよ、今から決めときな」
迦楼羅はミディアムの髪の毛に、真っ白なTシャツの右側に刺繍、黒いジーンズというラフなスタイル。
一方緊那羅は、和風のポニーテール、真っ白な道着の肩から袖にかけて刺繍、紺色の袴という和風の風貌、小町は自分の動きやすい格好と、自分の好きな格好を考えていた。
そして先程から気になっていた事、帝釈天と緊那羅が名乗る前に言ったあれ。
「神徳って何?」
「神徳はその神が何の神かってこと、例えばアフロディーテとかは愛の神様だろ。
神徳がある奴は比較的に強いってのもあるし、ちなみに俺は無いけどね。
では問題、アヌゥビスは何の神様だ?」
「死神?」
「正解!何となく分かったでしょ?」
「死神までもホーリナーなんですか?」
「死神って言ってもいろいろあるしね、‘死’そのものを司る神や、‘死’を操る神、ワルキューレっていう女神も死神の部類に入るし」
小町は何となく楽しくなってきた、自分が足を突っ込んだ世界は愛や音楽など綺麗なモノを司ってると考えると。
「緊那羅は音楽神、帝釈天は護法神みたいな感じか、私はなんだろ?」
「帝釈天の事知ってるのか!?」
「うん、私にこの腕輪になる前のネックレスをくれた人、何か黒い穴に消えて行ったけど」
「黒い穴!?ちとヤバめだな」
迦楼羅は携帯を取り出した、電話をかけると真剣な顔で話あっている、小町は自分が大変な事を行った事を理解出来た。
迦楼羅は携帯を閉じると後ろの緊那羅に投げつけた、緊那羅は明らかに怒っているが、迦楼羅は無視して話だした。
「帝釈天が悪魔に堕ちた」
「やっぱり」
「帝釈天が悪魔って何?あの人は腕輪着けてからホーリナーじゃないの?それに人なのに悪魔?」
「まだ説明してないのか?」
迦楼羅は苦笑いを浮かべながら謝った、不機嫌な緊那羅は背を預けながら小町を呼んだ。
「悪魔ってのは神に愛された私達みたいな奴が神を裏切ると悪魔になる、外見的には変わらないけど私達の敵だ。
厄介な奴が裏切ったな、帝釈天は日本支部で最強だ、《神選10階》っていうホーリナー最強の10人にも呼ばれた化け物、それが悪魔に堕ちたって事は――」
「最悪の場合16年前の二の舞いだな」
小町はこれ以上首を突っ込まない事にした、まだ新人の自分には関係ない事、そう思っていた、日本支部に着くまでは。
やっと本題に入って来ました、今回はこの作品を読むタメの予備知識みたいなモノです。
評価やコメントを頂けるとありがたいです、どうぞこれからも修羅の巫女をよろしくお願いします。