23話
「肉まで少し食い込んではいたけど、内臓までは届いてなさそうだね」
エルギの怪我の手当をしながらソーニャちゃんが言う。
「ああ、助かった。礼を言う。特にヨーデル」
「え?」
想像してなかったところで名前を呼ばれ驚くヨーデル。
「荷物だけじゃなく水までちゃんと持ってくるとは気が利いてるじゃないか」
「怪我したら水で洗うのは常識っすからね。怪我ばっかりしてきた人生が活きたっす」
「胸を張って言うことじゃないのよ……」
「まあ、ヨーデルは仕方なかったからね」
ヨーデルの過去を知らないフィンと過去を知ってるソーニャちゃんがそれぞれ違う反応をする。
「ところでお前たちはどこへ行くんだ?」
「王都っすよ。ソーニャちゃんが用があるらしいっす」
「そうなのか。忙しいのに済まないな」
「大丈夫。急ぎではないから。
君はソランへ帰る途中なんだよね?せっかくだし一緒に行こうか」
ソーニャちゃんがエルギを誘う。
「礼もしたいしな。一緒に軍へ来てくれ」
「軍人ならそれっぽく『同行願おう』って言いなさいよ」
「『ぐんまんじゅうを振る舞おう』でもいいっすよ」
「焼き印はライアックに置いてきた」
「あんな一発ネタを置いてかれても迷惑よ」
「代わりにソラン軍特製の乾パンを……」
「そんな非常食いらないわよ」
「肉がいいっす」
「傷が広がるのを感じる……」
こんな状況でも遊ばれるエルギが疲れの見える声質で言う。
「ほらほら。ちゃんとした治療を受けさせないといけないんだからさっさと行くよ。
まだ10キロ以上あるんだから」
見かねたソーニャちゃんが促す。
「一人で歩けます?」
散々エルギで遊び倒したヨーデルが今更気を遣う。
「ああ大丈夫だ。足腰に影響はない」
「今日はケックラーラまで行けなさそうだね」
ソーニャちゃんが諦めたように言う。先行き不安。
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「で、さっき交戦してた奴はなんだったんです?」
エルギを入れた4人でソランへの道中を歩きながらヨーデルが尋ねる。
「ああ。たまたま出くわしたというか、強い気配を感じたほうに向かっていったら、
茶を飲んでいた」
「茶……?」
「いや、水たまりの水だったかな……」
「茶よりは想像できるっすけど……」
「魔族ならほんとにやりかねないところが絶妙よね」
フィンとヨーデルがまじめな顔で真偽判定をしている。
「君たち、よくそんなことで悩めるね……」
ソーニャちゃんが呆れたように言う。
「こういうのは、言ってる本人の人間性も加味して……」
「ぐんまんじゅう作ってくるような旦那だぞ」
「そこが一層この事件を複雑なものに……」
「自分で言っといてなんだがいつまで話してるんだ……」
エルギも呆れている。年長組と子供たちの対比がよく出てますね。
「それで、今回の魔族には見覚えがあるのかな?場合によっては討伐隊を結成しないとならないよね」
どうでもいいことを真剣に話している二人を尻目に、話を前に進めようとするソーニャちゃん。
「ああ。俺は初めてだが、実はソランの近くで一度目撃されている。
交戦した兵が言っていた特徴と、魔族本人の口ぶりからして同一と見てほぼ間違いないだろう」
「君S級なんだってね。その君が討ち漏らすくらいだから相当できる相手だね」
「ああ。正直あのままだったら負けてたかもしれない……」
戦闘を思い出したのか、エルギが緊張感を持った顔で言う。
「あの動きは特種以上かもしれん。いや、
自分が負けそうになったから相手を無理やり持ち上げてるわけじゃないんだが」
エルギが言う。生真面目な性格が出る一言。
「うん。ノーナンバーの可能性は十分あると思う。君がちゃんとしたS級なのは、
立ち居振る舞いで十分伝わるよ」
「そう言われると照れるな。……と、そんなこと言ってる場合じゃない。
場合によっては本部に増援を……」
エルギとソーニャちゃんが真面目に話を続ける。一方。
「そもそも水たまりの水をすするって、四つん這いで顔を水たまりに浸けるように飲むってことだろ。
土下座してるみたいな恰好だな」
「想像できないからあんたちょっとやってみなさいよ。前から見ててあげるから」
「俺の胃への負担考えて!生肉食わされてから間もないんだぞ!」
いつまでも続く魔族の水の飲み方推理。
「あーもううるさい!」
まじめな話をしてるソーニャが杖を構え、振る。
3メートルほどの火柱に囲まれるヨーデルとフィン。
「ひっ」
急に現れる火柱に動揺するフィン。
「お、今のだじゃれか?」
「馬鹿な事言ってんじゃないわよ!」
こんな状況でもぶれない二人。
「せっかくの機会だから二人で協力して出てきなさい」
ソーニャちゃんが杖を構えながら言う。
「二人?こんなもの一人で十分っすわ」
自信満々ヨーデル。
「へえ。君のナイフなんかじゃ炎は切れないし柱も折れないよ?」
ソーニャちゃんが挑発するように言う。この子もけっこう攻撃的ですね。
「よっ」
ジャンプしてあっさりと火柱を跳び越すヨーデル。
「そういうことじゃないんだよ……意味ないでしょそれじゃ……」
ソーニャちゃんが呆れたように言う。呆れてばっかりですねこの子。
「フィンー今助けてやるぞー」
フィンの方に向き直りながらヨーデルが言う。
「私も大丈夫だと思うけど一応待ってるわ」
やだ……この状況でこの余裕素敵……。
「外に出たからって炎の強度は変わらないよ?どうするの?」
「外にあって中にないものなーんだ」
ヨーデルが急になぞなぞを始める。時間大丈夫なんですかね。
「俺か?」
まさかのエルギ参戦。
「もしかして君もけっこうヨーデルたち寄り?」
「堅苦しいのが嫌いなだけさ」
「正解はこれ!」
ヨーデルが水筒を出しちょぼちょぼと炎にかける。
そんなので消えるわけもなく。
「あ、あれ……?火に水をかけると消えるって一般教養で習ったのに……
あのおばさん嘘教え……いてぇっ!」
「今も昔もお姉ちゃんだよ?」
飾りがついている、杖の上の部分をヨーデルの頭上に叩き落しながらソーニャちゃんが言う。
「君ね、冗談言っていい時と悪い時があるんだよ?」
「フィンー満足したからもういいぞー」
頭をさすりながらヨーデルが言う。
「いつまで待たせんのよっ!」
フィンが叫ぶとフィンの目の前の炎が消える。
「ふう。暑かった」
汗をかきながら、炎が消えた部分からフィンが出てくる。
「へえ。氷や水系でオーソドックスにくるかと思ったら、風属性の矢を足元に射って酸素を奪ったんだね」
ソーニャちゃんが感心しながら言う。
「そんなヨーデルみたいな短絡的な消し方じゃ芸がないですし」
フィンが髪をかきあげながら言う。決めポーズなのかそれは。
「俺みたいってなんだ!俺の水じゃ消えてないわ!」
「あんたのじゃないわよ!川の水よ!」
「そっちの意味じゃねえよ!」
どちらも意味がずれている。
「あんたのギルドってこんな奴らしかいないのか……?」
エルギが動揺しながらソーニャちゃんに尋ねる。
「募集要項に『ボケと突っ込み両方できる方優遇』って書いてるよ」
「募集要項ネタって代々受け継がれてるのか……?」
思い起こされるヨーデルたちとの初邂逅。
「君も早く慣れないとね。ぽやぽやしてたらいつまで経っても新人のままだよ」
「だから俺をギルドの新人にするな!」




