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もういっそ

「あら、2人とも仲良さそうね」

柔らかい女の人の声が響く。


するとすぐさま反論しようと振り向いた2人の顔がさっとこわばり、そして丁寧に礼をした。


俺が棒立ちしていると、「お前も、ほら!!」とレアに頭を掴まれ無理やり凄い力で下げられた。

「ちょ、何すんだよレア」

と強めに反論すると、

「い、い、か、ら、」とまた無理やり押される。


すると、先ほどの女性がまた落ち着いた声で

「3人とも、頭を上げて」と促す。

すると「はっ」と隣で頭を下げていた女の子が力強く返事した。先ほどまであんな冷酷で強気だったのに。


「ここになぜか特異技術を持ってるインフェリクスが現れたって連絡が入ったから様子を見に来たんだけど、」

と女性は言いながら女の子のほうを見て


「ルミナが片付けてくれたようね」

とにっこりほほ笑んだ。

ルミナと呼ばれた女の子は少し嬉しそうな顔をしたが、すぐに「レアが教育係の責務を怠っていました。」と静かに言った。

「そうなの?レア」と言うと、レアはち、違いますよ‥と反論する。が、こちらの世界でも男は美人の前ではふにゃっとなるらしい。そして、俺も。


「君は‥?」と言われ、俺は驚いてしまった。

そして自己紹介をしようとすると、いきなりレアが「こいつは、例の隊長にお伝えした者です」と割り込んで胸を張って説明した。せっかく一生に一度美女と話せるか話せないかの場面をよくも潰してくれたな。俺は怒りの眼差しを向けると、レアは悪い悪いと言う顔をした。でも美女は俺にニコッと笑いかけてくれて、「君がそうなんだ」と言ってくれた。

するとレアが思いだしたようにこう言った。


「ごめん、紹介してなかったね」


そう言うと、気の強い女の子の方を見ると、彼女はそっぽを向いてしまった。やはりこの方とは一生分かり合うことはできなさそうだと確信した。


「こいつはルミナ。こんな性格だけど俺らの一個下なんだよ。まぁ一応大学1年生だけど」

年下とは思えない気の強さと生意気さだ。

「でもルミナ、すごい強いのよ。1級ですもの」と先ほどの美女が付け足して解説してくれた。


1級。一番強いってことじゃないか。だからさっきから異次元レベルの戦闘の技術力を見せつけられているわけだ。そりゃ威張りたくなるだろうな。


するとルミナはこっちは見向きもせず、美女の方を向いてあわてたように言った。

「そんな…!!コト様に強いと言われる技術など私にはありません…!!」

俺とレアと態度が違いすぎるのは、きっと気の所為じゃないようだ。それにしてもこの人は何者なのだろうか…と疑問に思いながら見つめていると、視線に気づいたのかまたニコッと笑いかけながら言った。


「あら、そういえば自己紹介できてなかったわね。」

とふわっと喋る。やはりこの人はどこか不思議で、オーラが違う。


「私はフェリクスの副隊長、特級隊員のコト・ハーバーです。みんなには気軽に読んでって言ってるんだけど、なぜかみんな堅苦しくなっちゃってて…ねっ、よろしくね」


と俺の手を握るとぎゅっと握手をしてくれた。美女に握手された衝撃を受け止めるのに時間がかかり、その立場の差にしばらく気づかなかった。


「ちょ、貴様、お前!!クソ野郎!!コト様に触れるな!!」と隣のルミナからのすごい罵倒と威嚇を受けた。いや、実際俺自身もこんな美女に触れてはいけないような気がするんだよな。


副隊長、特級隊員。


いや、強すぎないか。


「戦闘」という言葉から世界一遠そうなこの方が副隊長。本当に世界には何があるかわからない。


「普通は1級が最上級なんだけど、隊長と副隊長だけは1級よりもはるかに高い戦闘力をお持ちだから特級隊員なんだ。まぁ、隊長と副隊長になるには特級にならないといけないんだけど」

とレアが説明してくれた。


ずっとニコニコと微笑んているこの人がやはり人を殺すとは全く思えない。しかし服はリアと同じような明らかに戦闘用の雰囲気をただよわせている服を着ていた。しかし紺色で少しの金色の飾りがついている美しいワンピース服だった。戦うにはワンピースだと動きづらいのでは?と思ってしまったが、たぶんそれをも含めて強いんだろうな、と仮説を立てた。でも、人柄が優しい人なのはなんとなく伝わってきた。

その時、コト副隊長の服のポケットから電話がなった。「失礼するわ」と言いながら電話に出た。声的に相手は男性の方らしい。


「はい、フェリクス副隊長コトですが。」と落ち着いた声で電話に出る。すると、急にその声が緩み「なんだ、隊長ですか」と気楽に答えた。どうやら電話の相手は隊長らしい。


「実戦の6級に得意技術を持った敵が現れたと聞いたから連絡したんだが」という男性の落ち着いた低い声が聞こえた。するとコト副隊長は表情を変えることなく「ええ。私もその情報が入って全滅してるんじゃないかと思ってきたらルミナが片付けてくれていたわ」とニコニコ笑顔で答える。ルミナは嬉しそうだった。


そして電話越しの男性が少し黙った後、「そうか。礼を伝えといてくれ」と呟いて電話を切ろうとすると、コト副隊長が少しあわてて「ちょっと待って、」と引き止めた。「なんだ」という彼に副隊長は小声で説明した。「例のあの子がここにいるんだけど、どうする?せっかくだから話しておいたらどうかしら?」というと、また少しの沈黙の後、「いや、いい。また別の機会に。お前も会議があるんだから早く戻れよ」と冷たく言うと、ブチッと電話を切ってしまった。あんな美女にあんな冷たく言えるのはMr.セルのようなレベルの相当なイケメンじゃないと許さないぞ、と俺の中のなにかが煮えたぎった。


しばらくその場が気まずくなってしまったが、すぐにコト副隊長が気を利かせて、「それじゃあ、叶翔くんは少し不利な状況の中一人倒せたので、4級とします。これからも頑張ってね」と柔らかく言ってくれた。先程よりは少し不自然になってしまった美しい笑みを見せた。

そしてレアの方に向き、

「レア・ハレス。動きは良かったけれど背後を振り向きかつ射撃する動きが鈍かったわ。あと0.5秒は縮められるはずよ。」

そうしてルミナの方を向くと、

「ルミナ・アンラベル。特異技術の敵と戦うときは、R20Dの銃だと変える時間が無駄になるわ。S級からA級の銃を2つで戦うのよ。」

そう言うと、くるっと向きを変えて去っていった。言ってることがよくわからなかったが、たしかに強そうなのは言動からわかった。

そしてしばらくすると、レアが「とりあえず戻ろうぜ。初陣にしてはいい動きだったと思うよ」と俺の方をぽんっと叩いて言った。とりあえず、生き残ったのだ。まだ、戦った実感も生き残った実感もなかった。


すると「おい貴様」と厳しい声が聞こえた。振り向くと、またもや目を合わせようとしないルミナが言葉を発した。せっかく顔は可愛いのに性も言い方も全く可愛くないのが欠点だ。


「さっきの特異技術は素早く動くこと。ほぼ見えない速度で走る技術だ。普通1級とかの集まる戦場にいるんだけど、さっきのは紛れ込んでたんだ。多分、時の結い(ときのゆわい)を探しに来たんだろう」

「時の結いって?」

「自分で調べろ、のろま」


今すぐにでもこいつに銃弾を打ち込んでやりたい気分だったが、ルミナはもう言いたいことをいい終えたらしく背を向け素早く走っていってしまっていた。


激しく消えた先を見つめていると、レアが苦笑いしながら言った。

「ルミナは昔からきつい性格だからさ。まぁあいつのお陰で助かったわけだし、今日のところは許してやってくれよ。俺もイライラしたけどな」そうして2人で笑ってしまった。

帰り道には遠くからリアが走ってきて、息切れをしながら嬉しそうに合格を報告してくれた。

そうして3人で家に帰った。家についた途端、疲れがどっと来てしまったようで、レアの部屋でご飯も食べずすぐに寝てしまった。でも、初めて家に帰って「安心」というものを感じた。

もうここは家なのだ。レアと、リアがいる。ここが家になっているんだ。


しばらくたって、優しい声が聞こえた。リアの声だった。


「叶翔さん、ご飯できましたよ」

俺はそっと目を開けた。「叶翔さん…?」とリアが心配そうに俺に声をかけた。


俺は、夢の中で泣いていた。

人の声がする明るいこの居場所が俺を出迎えてくれていると思うと、この上ない安心感を感じることができたのだ。「うん、ごめんな」と俺は袖で涙をゴシゴシと半ば強引に拭き、ゆっくり立ち上がった。

もういっそ、元の世界に、第3人格に帰らなくてもいいんじゃないか。そんな考えが頭に浮かんできたのを無理やり押し込んで、俺は温かいご飯を食べた。


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