レアとリア
初めて受ける銃弾を俺は遅れてやっと理解し、一気に恐怖を覚えている瞬間、俺の前で立っているレアは、慣れた手つきで素早くすっと腰から2丁の小さめのピストルを手に取り、くるっと一周させて手で持ち、カチャッと素早く手に固定した。
先程の大きい声とは違い、レアはもうすでに冷静さを取り戻していた。そしてピストルを壁の上の人影に向けながら「目閉じといて」と俺に静かに言った。
もうレアの言う通りにするしか無い。俺はとっさに目をつぶった。
その瞬間、
『バンッバンッ』
2発の銃弾の音がほぼ同時にした。
そしてしばらく謎の沈黙が流れる。
「…レア?」
と俺は一気に不安になって聞くと、レアの応答が帰ってきた。
「あぁ。2人いたから同時に捉えたかったんだけど、1人取り逃がした。まずい。」
とにかくレアと俺は無事なようだった。
「叶翔がさっき言ってた耳鳴りの正体は、ここの路地に仕掛けられているインフェリクスの盗聴器だ。」
「盗聴器?!」
「あいつらは盗聴器ぐらいしかけてるだろうな」
「それより目、もう開けていい?」
気軽に言ったつもりだったのだが、レアは深刻そうにゆっくりと答えた。
「君の覚悟があるなら。見慣れない光景だと思うからさ」
俺はゆっくりと目を開けた。すると、俺とレアの5メートル前あたりで、血を流して倒れている武装した男性が1人倒れていた。銃を持ったその手はこちら側に向いたままであり、撃とうとしていたことが分かる。
初めて見る殺人現場は、衝撃が大きすぎた。だからレアはそんな俺に配慮して聞いてくれたのだ。
「大丈夫?」
とレアは先ほどの冷たい怖さがなくなり、優しく聞いてくれた。
「だ、大丈夫‥。レアは?」
と俺がなんとか平然を保ちながら聞き返すと、
「信じたくないけどな、これが当たり前の世界なんだ。ここは。」
とどこか寂しそうな顔で言った。その顔は子供っぽい見た目と性格にはにつかない顔だった。
「叶翔にとって、この世界は危険すぎる。早く第3人格にもどったほうがいいよ。」
「‥‥どうやって戻るの‥?」
2人は黙る。そして気まずそうに目を合わせ、逸らした。そしてレアはしょうがない、というふうに
「とりあえず、俺んちに来いよ。一応安全だからさ。」
と言って、連れて行ってくれた。
レアの家は俺達の家とあまり変わらない見た目だった。
レアはドアを開け、「ただいまぁ」というと、入ってというように俺に手招きをしてくれた。
すると、家の奥の方から「おかえりー」という軽快な女の子の声が聞こえた。
そして
「早かったね。もしかしてお兄ちゃんも銃弾検知器の対処で帰ってきた…の…?」
という声がだんだん近づきながら、やがて俺たちのいる玄関にひょこっと顔を出した。
その子は顔立ちがとても綺麗で、いかにもかわいくてモテる雰囲気を醸し出していた。
そして何より顔がレアに似ていた。ということはレアもモテる…?という余計なことは考えるのを辞めた。
その女の子は一気に顔を赤くしながら「だ、だれ…?!」とバッと物陰に隠れ、警戒しているようだった。
「こいつは俺の同級生。新入部隊ってとこかな」
「新入部隊?!」
と俺が驚くとレアは俺の手をこっそりつねって「バカ、今はそういうことにしとけ」
と小声で言ったもんだから俺は仕方なく
「あ、は、はい。新入部隊、ですかね、」
というと「ごまかすの下手すぎだろ」
とレアに突っ込まれた。
「松島叶翔です。よろしくお願いします」
というと、女の子はまだ恥ずかしそうだったが
「あ、えっと、妹のリアです。兄がお世話になってます。」
と礼儀正しく挨拶してくれた。
まぁお世話になってるのはどう見てもこっちだし、出会ってまだ2時間ってことはツッコみたいけどな。
「まぁ上がれよ。リアは人見知りだから悪く思わないであげてよなぁ」と言って部屋に通してくれた。
俺は初めて他人の、というか友人の家に来た。
いや、友人と呼んでもいいのか?
でも勝手に友人にしちゃ悪いかな‥と思い、その疑問はそっと心の奥にしまっておいた。
その時、
「戻る方法が確実にわかるまで、ここで安全にしてねぇといけねぇからさ。まぁしばらく居ろよ。」
とレアが大きく伸びをしながら言った。
「え、でも申し訳ないよ」
というと、
「帰り方がわかんねぇんだろ?そのままフラフラしててもさっきみたいに撃たれて死ぬだけだ。大学もしばらくは休めばいい。あっちの世界には多分反映されないからさ。」
とにかく先程の襲撃で、俺がいつ死ぬかわからないところに来てしまったというのは身を持って理解した。
そして俺は深呼吸をし、ゆっくりと一つ一つの質問をまとめる。
「まず、なんで俺を殺そうとしてくる奴らがいるの?」
「あいつらは、俺達の敵だ。『インフェリクス』って呼ばれている。第3人格の生態系や技術などを利用し、発展に悪利用しようとしている。でも、肝心のその第3人格を持っている第2人格はそうそういない。だから、少しでも怪しそうな人物がいたら徹底的に殺すか、捕まえて拷問するか。まぁ、要するにゴミどもってことだな。」
なるほど…と俺は納得してしまった。妙にすんなりと話が入ってくるのは、やはり事実だからなのだろう。
「で、レアはそれに対抗する人ってこと?」
「俺だけじゃない。ちゃんとしたそういう隊がある。インフェリクスに対抗して、昔から『フェリクス』って呼ばれてるし、俺達もそう認識してる。実は、普段の何の変哲もない住民などは、この隊の存在には気づかない。なにかきっかけで知り、入りたいと思うものだけが入ることができる軍隊だよ。」
「レア、さっきものすごく強かったけど、みんなそんな感じで戦ってるの?」
「いや、俺は2級隊員。まだ上に1級隊員がいる。俺ら隊員は主に銃さばきなどでインフェリクスと戦う。まぁ、さっきの小さい銃は緊急用のだから性能は良くないけど。あとでちゃんとしたもの見せるよ。」
「叶翔、お前のことはフェリクスのトップに相談して、どうにかしてもらうからさ。まぁ多分、2級以上の実力をつけながら自分の身を守ることになると思うけど」
「助かるよ。ありがとう。」
………え?
「ちょっと、今2級以上の実力をつけながらって言った?君と同じ銃さばきをできるようになれと?!?」
と言いながら俺は思わずむせてしまった。
ゴホッと息苦しく咳をしていると、不意に部屋のドアがノックされた。
「話の途中ごめん。お兄ちゃんと叶翔さんのお茶持ってきたんだけど…」
と先ほどの妹のリアちゃんの声が聞こえた。
「おう、サンキュー。こいつちょうど死にそうだったからさ」とレアは軽く返事をし、俺は「だすがり…ゲホッ…まず」となんともいえないみっともない返事をしてしまった。
リアちゃんは俺を心配そうに見た跡で、お茶を置いてくれた。そしてレアに声をかけられ、ふわっとした髪を揺らしながら振り向く。
「リア、あとで隊長に連絡できるか。」
「え、でも隊長任務遂行中じゃ…」
「いや、多分言ったら通してくれるレベルの重大さだから」
「…わかった。やってみる」
そういうと、リアちゃんはニコッとぎこちない笑顔をこちらに向けながら部屋を出ていった。
「あぁ、そうだ。リアもフェリクスだよ。あいつはまだ3級だけどな」
「ゴホッ…3級でもすごいよ。死と隣り合わせで動いてんだもんな」
「…そうだよ」とレアはまたあの時の寂しそうな表情を一瞬見せた。
でも本当に一瞬だけで、またすぐケロッともとに戻った。
「…俺、これからどうなるんだ」と思わず呟いた。知らない世界。知らない人。知らない事。
何も知らない世界で、どう生きていけばいいのか。
もう大人だと思っていたけれど、まだまだ臆病さはどこかに残っているんだなとつくづく感じてしまった。
「どうにでもなるよ。楽しいと思えば、案外この世界も楽しいと思う…ぜっ」とレアは肩を組んできた。
うわっと俺は支えきれず部屋の床に倒れる。「よっわ」とレアがあははっと笑う。
俺は「うるさいなぁ」と言いながらも、心の中でつられて笑ってしまっている自分が変に思えた。
多分、レアは「友達、友達じゃない」なんて、そんなちっぽけなことを考える暇があったら、誰かとを守って、そんで笑っているんだろうな。きっと、俺とは違う人間なんだ。
なぜか、懐かしかった。
そして初対面ながらちょっとだけこいつのことがわかった。そんな気がした。




