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同い年

何気ない、ある日。世界の分かれ道を見つけた。


ふぁぁと人目も気にせずのんびりとあくびをするいつもと変わらない平日。大学の講義とは教室が広い分、教授との距離が遠くなる。だから余計に眠くなる。

すると、そんなこんな睡魔と闘っているうちに、いつのまにか講義が終わっているのだ。周りでは「ねぇお昼あそこ行かない?」とか、「あっちの食堂行ってみようか」とか「会話」が聞こえてくる。でも俺は「会話」をする相手がいない。

話す友達はいない。

それでも、そのおかげで俺は「人」というものに興味が薄まっているのか、悲しみや虚しさも感じずむしろのびのびやれているとポジティブに捉えることができるのは我ながら自画自賛できる。


俺は12歳のころ、両親が事故で死んだ。もともとこんな性格だから、友達もほとんどいない俺だった。

でも本格的に1人になったのは多分、その時なのだろう。正直、立ち直るのに時間がかかった。

いまだ信じられていないといえば、嘘ではない。

そして支援を受けながらいつのまにか大学2年、20歳までエスカレーターのように生きてきてしまった。別に大学2年になったところでなにか変わるかと言うと、別に何も変わらない。変わろうとも思わなかった。


今日もバイト代と少しの支援でもらったお金でコンビニ飯を買い、1人で食べる。

いくらあったっけな、と大学の広い道幅のベンチでどかっとすわっていたら、いつのまにかさっきの睡魔が今になってもう一度復活し襲ってきた。

昼はいいや、もいっそ睡眠に時間をあてよう。

心地良い日差しと少しの風、俺以外の人のざわめき。それらが最高の眠りにつくための環境を整えてくれていて、俺は心置きなく眠りについた。


何か、夢を見ていた気がする。

何の夢を見ていたのか、思い出せない。

何か変わった気がする。

でも、何が変わったのか分からない。


そんなモヤモヤとした何かを感じながら寝ている中、起きるか起きないか葛藤していると、突然、

「‥あ、あの‥!!」

と驚いたような声がかけられた。

「え‥はい‥?」

と俺のほうが驚いていると、その人は

「え、あ、すみません。人違いでした。」

と謝りながらどこかしょんぼりした様子でとぼとぼ俺から離れていこうとした。

その人はきれいなベージュ色のおしゃれなコートを着ていた。少し俺より背が低めで髪は短髪で、高めの声のトーンに似合うような見た感じ明るそうな人だと思った。

俺に声を掛ける人物なんて、この世を探してもいないんじゃないかぐらい思っていたから、本当に驚いた。そして、そこからが地獄だった。なんと俺は離れていく彼の背中に咄嗟に、こんな言葉をかけてしまったのだ。


「あ、あの、食堂なら、安いメニュー結構早く売り切れるので早めに行ったほうがいいですよ」


俺は何を言ってるんだ?なぜ初対面の人に食堂の話をしたんだ俺は。いや、大学1年生だと思ったんだ。だからもし知らなかったら売り切れてるかもと心配で‥。だめだ、会話ってなんだっけ。

恥ずかしさと惨めな気持ちで困惑していると、彼はくるっと振り向いてニコッと微笑みながら


「ありがとうございます。でも俺、弁当派なんで!大丈夫っす!!」

と軽快に答えてくれた。

驚いた。この大学は食堂がでかいからほとんどが食堂を利用している。コンビニ弁当は俺か留年組ぐらいだと思ってたのだが、新たな親近感が勝手に湧いてしまった。


「弁当って珍しいっすね」

というと、彼は

「そうっすか?俺の場合は妹がついでに作ってくれるんで、自動的に弁当になってるんですよ」

と答えた。

愛兄弁当か。うらやましいな。

いや、悔しいの間違いだったな。


「じゃあもしかしてあなたも?」と少し期待したようなトーンで聞かれ、俺は咄嗟に「一応、」と答えた。先程ちょっと悔しかったのが声のトーンにもでてしまい、慌てて無理やりえへへと笑った。

多分、気持ち悪かっただろうな。ごめんなさい。

すると、


「じゃあ良かったら一緒に食べませんか?」


と思わぬ声がかけられた。

一緒に飯を食う人、実は少し憧れていたのだ。大学でも、アパートでも1人で食べる。目の前で見るのはスマホくらいだ。


「いいんですか」というと、彼はもちろん、と笑顔で頷いてくれた。

そしてコンビニ飯を無事買い終わり、席を探そうとすると、急に彼に「俺についてきてください」と言われた。

「え?」と不思議に思いながらついていくと、大学の裏側、少しイチョウの木が並んだ先程俺達が出会ったベンチのすぐ近く、そこにテーブルと椅子が綺麗に並べてあった。

「こんなとこあるなんて、俺知らなかったです」と驚いてると、彼は嬉しそうにしながら

「まぁ座ってください。ここ裏スペースですから」と言い向かって座った。


そして自動的に自己紹介をする流れとなった。

松島叶翔まつしまかなとです。えっと、大学2年生です。よろしくお願いします」

と言うと、少しだけパッと彼の顔が輝いた。

不思議に思っていると、彼が自己紹介をしてくれてようやく理解した。 


「レアって言います。俺も大学2年生だよ。」


『同い年なんかい』



「レアって珍しい名前だね。もしかしてハーフ?」と聞くと、レアは不思議そうな顔をしながら

「そう?別に珍しくないと思うけど‥っていうか僕純日本人だよ笑」

と当たり前のように言った。俺はますます疑問に思って首を傾げたが、未だレアは何ともないような顔をしている。これは俺がおかしいのか‥?

それともレアの子供っぽい性格のせいか‥‥?


するとレアは弁当箱を開きながらこう言った。

「それにしても最近襲撃が少なく感じない?」

「はぁ‥」と俺は気のない返事をしたあと、やっと言葉のおかしさに気づいた。

「‥しゅ‥‥‥襲撃‥‥‥‥?!」

おそるおそる聞き返す。いきなり笑顔の日常会話の中から物騒な言葉が飛び出したらそりゃ本当に怖い。

「え、だからあれだよ。インフェリクス」

とちょっと小声で言った。

いや小声だろうと違おうと意味不明なのは理解できる。

「え、‥ちょ、はい?」とまるで違う言語を話しているかのような反応にレアはおかしそうに

「冗談はやめてよね」と笑う。こちらのセリフだ。冗談はやめてほしい。何が何だかわからないという俺の顔を見て、レアはようやく

「……もしかして、知らない?」

と気づいたようだった。


「何もかもがわからないんだけど‥‥」

というと、レアは

「じゃあ、第2人格も、第3人格も‥?」

とまたもや意味不明なことを聞いてきた。

「う、うん。…?わからん」

と答えると、レアは一瞬固まった。


すると、いきなりレアは食べ終わってもいない弁当をおいて、俺の腕を持って引っ張りどこかへ連れて行こうとした。

「ちょレア!まだ弁当食べ終わってないじゃん」

と俺が言っても、レアは聞かないし止まらない。俺の腕をぐっと掴んだまま、ずんずんと歩いていく。

しばらく引き連れ回されて、大学から少し外れた知らない細い裏道に来てしまっていた。

「ちょ、何すんだよ」俺は少しイライラしながら腕についたレアのあとをこする。だいぶ力強く俺の腕を引っ張ってきたのか、跡が消えない。そのことにもイライラした。


すると、レアは先程の明るい雰囲気とは代わり、真面目に静かに話し始めた。

「いきなり連れてきて悪かったな。ここじゃないと、この話は危険だと思ったからだ。理解してほしい。まず、君に分かるように説明するから、しっかり理解してね。」


「俺達人間は、2つの人格を持っている。『第3人格』と『第2人格』と呼ばれる。つまり、1つの人間の身体の中には2つの人格が存在している。でも、俺達が生きることができるのは、どちらかの人格だけだ。

そしてその2つの存在に気づけているのは、おそらく俺達第2人格として生まれた者だけだと言われている。

つまり、1つは空っぽのほぼ無いに等しい人格を持っている、そういうことだ。」

レアはこちらを見る。


「俺との会話からの推測だけど、叶翔は両方の人格に意識がある、そうじゃない?」


説明されてわかったようなわかんないような感じになった。そして俺はやっと口を開いた。

「じゃ、俺はその両方のなんとか人格の珍しいタイプってこと…?」


「珍しいどころじゃない。俺は少なくともそんな人間知らないし見たことも聞いたこともない。」


ちょっと自分に価値があるような気がして嬉しくなってしまった。でもそれもつかの間、バグっているレアの話に対し、いろいろな疑問が押し寄せてきた。

「でも、俺はそんななんとか人格とかの話今までそんなこと聞いたことも見たこともないよ。」

「じゃあ、いつもはやっぱり第3人格にいて、何があったかは知らないけどなぜか今始めてこっちの世界に来たっていうことだと思うよ。」

「世界?人格じゃなくて?」


「人格だけど世界。1つの人間でも、全く違う2つに世界が別れてんだよ。」


「…嘘じゃないよね?」

「いやここまで頑張って説明したんだから信じろよ」

再度確認するも、即ツッコまれ、どうやら本当のことらしい。


「でもこっちの世界に来たことで、大変なこともある。とりあえず……」

とレアが説明しようとした瞬間、何かが俺の耳元でキーンと鳴った。

いきなり耳を軽く抑えた俺にレアは不思議そうに聞く

「どした?」

「いや、ちょっと耳鳴りが…キーンってさ」


レアは少し考える素振りを見せた。そしていきなりハッとしたような顔をし、俺をかばうように両手を広げながらあたりを見回す。その顔はまだ見たこと無いような、怖い警戒したような顔だった。

「…レア?」

とその不思議な行動について尋ねようとした瞬間。


『伏せろ!!!!!!!!!!』


とレアの声が響いた。俺は咄嗟にその言葉に従いしゃがんだところ、


「バンッッ!!」


という大きな鋭い音とともに俺の頭スレスレを何かが通り過ぎていった。

通り過ぎてからやっと理解した。いや、理解したくなかった。


やばい、これ


銃弾だ。






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