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【8/19書籍第1巻発売!】余命一年の公爵子息は、旅をしたい  作者: サンボン
第五章 白銀の剣姫と『背教』のタローマティ
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友達との別れ

「っ!? パトリシア殿下!」


 ファーヴニルとリンドヴルムの闘いの地から転移してバルディア山の(ふもと)に戻ってきたヨナ達は、森の出口付近で待機していた帝国軍と合流した。

 最初からここに転移することができたが、やはり他の者に古代魔法が見られるのはまずいと判断し、少々面倒ではあるがそのようにしたのだ。


「よ、よくぞご無事で……」

「うむ。白い竜については黒い竜によって討伐が果たされた。私はヨナ達とともに一足先にヘルシングへ戻り、これ(・・)を持って報告してくる。お前達も速やかに帝国への帰還準備を始めよ」

「「「「「は……はっ!」」」」」


 リンドヴルムの鱗を掲げて告げるパトリシアに、騎士や兵士達は複雑な表情で敬礼する。

 彼女達が戻ってくるまで、彼等は十中八九白い竜あるいは黒い竜によって殺されるか、それともやはり思い直して戦わずに戻って来るか、そのどちらかだと思っていた。


 だが、あまりにも予想外の結果を受け、彼等は逆に困惑する。

 つまりこれは、パトリシアとともに従軍した騎士や兵士達の面々が、役立たず(・・・・)以下(・・)だと示すことになるのだから。


 ……いや、役立たず(・・・・)以下(・・)どころの話ではない。

 死地へと赴くパトリシアを見捨て、あまつさえ主君の死すらも願ったのだから。


「わ、我々もお供します!」

「そ、そうです! ここからヘルシングまではかなりの距離! パトリシア殿下だけでは……」

「ならん。それに、私一人の(・・・・)ほうが速い(・・・・・)

「「「「「っ!?」」」」」


 明確に不要だと告げられてしまい、騎士や兵士達は顔を青くする。

 せめてパトリシアに従軍することでかろうじて体裁を保ち、帝国に帰還した後に咎めを受けないようにと考えて申し出たのに、にべもなく断られてしまったのだ。自分や家族の命もかかっているのだから、そんな反応を示すに決まっている。


「……ああ、心配するな。今回のことは仕方ない(・・・・)。だから気にせず、帰還の支度をするのだ」

「は……」


 色々と察したパトリシアの言葉を受け、騎士や兵士達はうつむいた。

 彼女の温情により生かされたわけだが、それ以上に、彼等は自らの判断によって誇りや名誉を失ったことに気づいてしまったのだから。


「ではな。ヨナ、ヘンリク、行こう」

「「は、はい!」」


 三人は騎士や兵士達を置き去りにし、森の中を進む。

 振り返ることを、一切せずに。


 ◇


「じゃあ……母ちゃんと婆ちゃんが家で心配してるだろうから、おいら達は帰るよ。もちろん、ヨナもだよな?」


 森を抜け、ケルバ村が視界に入ったところで、ヘンリクがヨナに尋ねる。

 彼の中では、ヨナも一緒に帰るものだと思っていた。


 だが。


「ヘンリク、ごめん……僕は()に行くよ」


 寂しそうな表情を浮かべ、ヨナはかぶりを振る。

 そう……ヨナの目的は、残された時間の中で世界中の伝説に出逢うこと。この二か月半でいくつかの出逢いと別れを繰り返してきたヨナは、次の伝説を求めて旅に出るのだ。


「へへ、そっか。そんな気はしてたんだよな……」

「ごめん……」

「謝んなよ! それに、おいらとヨナは友達(・・)だろ?」

「! う、うん!」

「ヴォウ! ヴォウ!」


 指で鼻を(こす)りながら、にかっ、と笑うヘンリクに、ヨナも笑顔を浮かべて頷く。

 クウも『僕も! 僕も!』と言っているみたいで、一生懸命に吠えた。


「えへへ! もちろんクウもだよ!」

「ヴォウ!」

「わっ! くすぐったいよ!」


 顔を舐められ、ヨナがはしゃぐ。


 妖精王オベロンによって北の大地に飛ばされたヨナにできた、大切な友達。

 今回の旅も、これ以上ない出逢いがあった。


「じゃあ、俺達は行くよ!」

「うん! さよなら!」

「元気でな」


 ヘンリクを背に乗せ、クウがケルバ村へと雪の上を駆ける。

 一人と一匹の背中を眺め、ヨナとパトリシアは微笑みを浮かべながら手を振った……のだが。


「む……」


 パトリシアは、ヘンリク達を見て目を凝らす。


「? どうかしたんですか?」

「いや……ヘンリクとクウの身体の一部が、光ったように見えたのだが……」


 同じようにヨナもヘンリク達を見るが、パトリシアが言うように光ったりしている様子はない。


「ひょっとしたら、雪が陽の光に反射してそう見えたのでは?」

「うーん……そうかもしれんな」


 ヨナの言葉にそう返事をするものの、納得できないのか首を(ひね)るパトリシア。

 なぜパトリシアがあの輝き(・・・・)に気づけたのかは分からないが、それは彼女がこの世界において特別な存在(・・・・・)だからなのかもしれない。


「まあいい。それよりヨナ、ヘンリクには『次に行く』と言っていたが、どうするかあて(・・)はあるのか?」

「え、ええと……」


 パトリシアに綺麗な顔で詰め寄られ、ヨナは少しどぎまぎして僅かに目を逸らす。

 やはりヨナも男の子。緊張してしまうので、できればあまり顔を近づけないでほしいと思うヨナだった。


 だというのに、そんなことはお構いなしのパトリシアは、さらに顔を近づけると。


「まだ決まっていないのであれば、それまで私と一緒に帝国に行こうではないか。このパトリシア、白竜リンドヴルム討伐の最大の功労者である君を、ぜひとも労わせてほしい」

「ええええええええええええ!?」


 パトリシアの申し出に、ヨナは思わず声を上げた。

お読みいただき、ありがとうございました!


本作もいよいよ第五章に突入しました!

今回は帝国に帰還したヨナがどんな活躍をするのか、どうぞお楽しみに!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

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