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白い竜討伐へ

「す、すまない。白い竜……リンドヴルムを倒すこととヨナの力を借りたいということは分かったが、どうするのだ?」


 ここまでずっと黙って話を聞いていたパトリシアが、ファーヴニルに尋ねる。

 彼女もまたカレリア王国からの要請を受け、白い竜を討伐するためにここに来たのだ。ファーヴニルがリンドヴルムを倒すにしても、パトリシアには最後まで見届ける責任があった。


『我等竜は、常に互いに共鳴し合っている。このため、リンドヴルムが今どこにいて何をしているのか、手に取るように分かるのだ』


 ファーヴニルの話によると、竜はこの世界においてあまりに稀少な種であるため、自らの存在を同じ種族である竜に常に発信しているのだとか。

 これにより竜は、自分以外の竜の存在を知ることができるそうだ。


『今この世界には、我とリンドヴルムを含め八体(・・)の竜がいる』

「そ、そうなんですね!」


 ヨナの持つ伝説をまとめた本に記されている竜に関連した伝説は、何も『二匹の竜の(つがい)』だけではない。

 だとするならば他にも竜がいて当然ではあるものの、その事実を知りヨナは思わず目を輝かせた。


『……幸いなことに我が敗北してからこの二週間、彼奴(あやつ)は人間を襲うこともせず身を潜めている。我に負わされた深手を癒すためにな。まあ、それは我も同じことなのだが』


 ファーヴニルは、自身の腹にある大きな傷を見やる。

 これもリンドヴルムに負わされたものなのだろう。


「こんなことを聞くのも何だが、その傷でリンドヴルムに勝利することはできるのか……?」

『やってみなければ分からぬ。……が、負けるわけにはいくまい。彼奴(あやつ)は禁忌を犯したのだからな』


 パトリシアの問いかけに、ファーヴニルは苦渋を(にじ)ませた声で答えた。


 先程ファーヴニルから聞かされた、『人間を捕食する』という禁忌。

 それは人間よりも遥かに上の存在である竜を狂わせてしまうほどの、甘い誘惑なのだろうか。


 だが、結果としてカレリア王国の首都ヘルシングは、リンドヴルムによって半壊の憂き目に遭っている。

 こうして結果が出ている以上、つまりそういうことだ。


「いずれにしても、今すぐ何とかしないとさらに被害が拡大することは間違いありません。まずはリンドヴルムと接触し、どこにも逃げられないようにしないと。でも、その前に……」

『む……何かあるのか?』

「はい。僕達と一緒にバルディア山に来た、ヘンリクという男の子がいます。まずは彼と合流しないと」

「そうだったな」


 既に死んでいるであろう父親との決別を果たすため、クウとともにバルディア山でその名残(なごり)を探しているヘンリク。

 このままヨナとパトリシアがファーヴニルと一緒にリンドヴルム討伐に向かってしまったら、この危険な山で彼を一人きりにしてしまう。


「ですので、ちょっと待っててくださいね」


 ヨナは地面に人差し指を向けて高速で魔法陣を描き、そのままヘンリクのもとへと転移した。


「うわっ!?」

「ヴォフッ!?」


 突然目の前に現れたヨナを見て、驚きの声をあげるヘンリクとクウ。

 だが、彼等のいる場所は最初に別れたバルディア山の(ふもと)だった。


「ヨ、ヨナ、驚かせるなよ……」

「えへへ、ごめんね。それで……目的は果たせた?」


 胸を撫で下ろすヘンリクにはにかんで謝罪すると、ヨナは真剣な表情で尋ねる。

 とはいえ、彼等がここにいるということは、全て終わったということなのだろう。


「……これ、見つけたよ」


 そう言ってヘンリクが差し出したのは、汚れた革の靴だった。

 つまりこの靴は、彼の父親のものということ。


「やっぱり父ちゃんは、ここで死んだみたいだ。もう五年も経ってるし、きっと魔獣に食べられたりしたんだと思う」

「そっか……」


 ヘンリクは淡々と話しているが、心の中ではきっと悲しくつらい思いをしているに違いない。

 その証拠に、彼の肩はずっと震えていた。


「そ、それで、ヨナはどこに行ってたんだよ。……ていうかよく考えたら、いきなり目の前に現れたよな!? あれって何をしたんだよ!?」


 先程のヨナの転移を思い出し、ヘンリクがまくし立てるように尋ねる。


「そうだった! この山の頂上でパトリシア殿下がファーヴニルさんと一緒に待ってるから、ヘンリクも一緒に行こう!」

「うわわっ!?」


 ヨナもまた本来の目的を思い出し、地面に魔法陣を描きつつヘンリクの手を引っ張った。

 それにつられてクウも一緒に魔法陣の中に入ると。


「っ!?」

「ヴォウ!?」


 いきなり景色が変わり、目の前には巨大な竜とパトリシアがいる。

 もう何がなんだか分からず、ヘンリクとクウは茫然(ぼうぜん)とした様子で顔を見合わせた。


 それよりも。


「うむ、ヘンリクも来たか」

『ほう……お主達とともにいた、少年と狼の王(・・・)か』

「そのとおりだ」


 いつの間にかパトリシアとファーヴニルが親しげに会話しているのを見て、ヨナは首を傾げる。

 ヘンリクを迎えに行くまでの間に、この一人と一匹に一体何があったのだろうか。


 それに、ファーヴニルは気になる言葉を吐いた。

 クウを見て、『狼の王』だと。


「そのー……ファーヴニルさん、クウが『狼の王』というのは……」

『かつて北の森を支配していた王の末裔が、その狼の魔獣だ』

「「ええええええええええ!?」」

「ヴォウ?」


 驚きの事実に、ヨナとヘンリクが声を上げた。

 当の本人であるクウはよく分かっておらず、首を(かし)げているが。


「ヘ、ヘンリク、知ってたの!?」

「まさか! おいらが小さい頃に、父ちゃんが孤児(みなしご)になっていたクウを拾ってきたんだよ!」


 逆にその話を聞くと、ますますヘンリクの父親が怪しく思えてくる。

 五年前にこの山で消息を絶つ前に、大物の獲物や宝石などを持ち帰ってきたことといい、一体彼の父親は何者なのだろうか。


 もちろん、全てはただの偶然である可能性も否定できないが。


『さあ皆の者、我の背に乗るがいい。リンドヴルムのいる場所まで行くぞ』

「「は、はい!」」

「ああ!」

「ヴォウ! ヴォウ!」


 ヨナ達は全員ファーヴニルの背に乗る。

 ただしファーヴニルの背が高すぎるためによじ登って乗ることは厳しいので、ヨナの魔法で転移してだが。


『しっかりつかまっているのだぞ』

「うわわわわわ!」


 ファーヴニルの山のような巨体が、ふわり、と浮き上がり、ヨナ達はリンドヴルムのいる場所へ向けて飛び立った。

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