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黒い竜の飛来

「なあヨナ……私は、白い竜に勝利できると思うか?」


 パトリシアは、抱えている不安を吐露し始めた。


「君にも伝えたとおり、白い竜は首都ヘルシングの半分を壊滅させた。本音を言えば人間の身で伝説の竜に対抗できるなどと、そんなおこがましいことは考えていない」

「…………………………」

「だが、それでも私達はやるしかない。エストライア帝国としてカレリア王国からの要請を引き受けた……いや、そうじゃない。これ以上人々が苦しむことがないように、白い竜を倒すしかないのだ」


 その黄金の瞳に悲壮な決意を(たた)え、パトリシアはヨナを見つめる。

 ヨナは、そんな彼女にどう答えればよいのかと、口元を押さえた。


 言ってしまえば、ここはカレリア王国であり帝国じゃない。第一皇女であるパトリシアが、命を懸けてまで白い竜と戦う義理はないのだ。

 だがそれでも、彼女は白い竜に挑むという。『人々が苦しむことがないように』と、思いと覚悟を秘めて。


 そんなパトリシアが、ヨナにはとても気高く、眩しく見えた。


「……僕には無責任なことしか言えませんし、そこまでの覚悟をお持ちのパトリシア殿下の慰めにもならないことも分かります。でも……それでも、言わせてください。きっとパトリシア殿下が、白い竜に勝利できると」

「ふふ、その言葉だけで倒せる気がする。ありがとう、ヨナ」

「あ……えへへ」


 笑顔のパトリシアが、剣だこだらけのごつごつした手でヨナの頭を優しく撫でる。

 ヨナは彼女を見つめ、嬉しそうにはにかんだ。


「さて……バルディア山に向け、明日も早朝から出発する。さすがにもう寝なければな」

「はい!」


 ヨナとパトリシアは、今も気持ちよさそうに眠っているであろうヘンリクのいる幕舎へと戻る。

 その途中。


(うん……白い竜と対峙する、その時は……)


 妖精王オベロンに転移させられ、やって来たカレリア王国。

 そこでヨナは、ヘンリクという友達とパトリシアという尊敬できる素晴らしい女性(ひと)と出逢うことができた。


 この先に待ち受ける『二匹の竜の(つがい)』の伝説。これから二人は、それに挑むのだ。きっと危険な目に遭うはず。


 だからヨナは拳を握り、決意する。

 白い竜と対峙したその時は、必ず二人の力になろうと。


 ――理不尽(・・・)を打ち壊してきた、古代魔法で。


 ◇


「ヘンリク、そろそろ森を抜けるのではないか?」

「は、はい! そのはずです!」


 馬に乗り森の中を進むパトリシアの問いかけに、ヘンリクが緊張気味に答えた。

 だが、バルディア山への道程は分からないかもしれないが、森の中に関してヘンリクはしっかり熟知しているし、何より森を庭にしているクウもいる。心配はいらないだろう。


 引き続き森の中を進むこと、およそ二時間。


「あれが……」


 三人と帝国軍の眼前にそびえる、険しい岩山。

 あれこそが、『二匹の竜の(つがい)』が棲むというバルディア山だ。


 ここまで森の中を進んできたために視界を(さえぎ)られ、その姿を見ることはできなかったが、こうして目にするとかなり標高がありそうだ。


「ここからなら、(ふもと)まで一日もあれば着きそうですね」

「そうだな」


 親指を突き立てた右腕をバルディア山に向けて片目を(つぶ)るヨナの言葉に、パトリシアが頷く。

 ラングハイム家にいた時に読んだ本の中にあった、目視で距離を測る方法。それがここで役に立った。


 知識というものは、いざという時に使ってこそ初めて意味を持つ。

 そういう意味でも、ヨナが過ごしたあの不遇の十一年間は決して無駄ではなかった。


 古代魔法を含め、あの日々があったからこそ今のヨナがいる。


「さあ行くぞ! 間もなく我々はバルディア山に……白い竜に挑む! 我々が勝利し、新たな伝説に名を刻むのだ!」

「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!」」」」」


 パトリシアの鼓舞に、騎士や兵士達が右手を突き上げて応える。

 三日前の彼女が告げた本音からも、内心では恐怖に染まっているのかもしれない。


 それでもなお、パトリシアは猛る。

 帝国軍を率いる者として……『白銀の剣姫』と呼ばれるに相応しい姿で。


 だが。


「っ!? あ、あれは!?」


 そんなパトリシアの覚悟や思いに水を差すかのように、巨大な影が帝国軍を覆った。

 ヨナが、ヘンリクが、クウが、パトリシアが、帝国軍の皆が上空を見上げる。


 そこには。


 ――全身を漆黒で包んだ巨大な竜が、大空を駆けていた。

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